08
その夜は、どうやれば戻れるのかずっと考えた。
多分、昔のように過ごすだけじゃ何も変わらない。
名前が帰りたいって思わないとダメだ。
ない頭で必死に考えるが、何もいい案はでてこなくてまた明日考えようと目を閉じた。
朝、サムの「朝練遅刻すんで」という声に起こされスマホをみると日付は2012年7月20日の金曜日を示していた。
目を疑った。
たった一回寝ただけで4ヶ月も進んでいる。
サムに「最近の俺、どやった?」と聞けば何言ってんだこいつという顔をされたので、この時代を過ごしていた‘俺’がいたらしい。
「アホなこと言っとらんで早よせんと置いてくからな」というサムの声にハッとし、冬服から夏服へと変わった制服へ袖を通した。
朝練が終わりクラスへいけば、これから来る夏休みにみんな浮き足立っていて、そこかしこで夏祭りやプールの予定を立てている。
そういえば、今日俺と名前は付き合うたんやなと思い出した。
部活が早く終わる今日、近所の夏祭りに名前と行き、花火を見ながら告白したんだった。
この名前はどうなんだろうか。俺がいない間、‘俺’と仲良くなっていたんだろうか。
名前の方を見ると友だちと楽しそうに話している。
「名前は今日の夏祭り誰と行くん!?」
「そりゃ野暮ってもんやろ!」
「あんないい雰囲気しとったら、付き合うまで秒読みやんな!」
俺のことか?と思った次の瞬間耳を疑った。
「1組の佐藤くん!!」
聞こえてきたのは全然違う名前で、思わず誰やねんそれ!と叫びそうになる。
「ちょ、やめてや〜」
「恥ずかしがってかわええな〜!」
「付き合うことになったら教えてな!」
俺がいない間に過去が変わっとる。
もう一回振り向かせればええと思っとったけど、勝手に進んでいく時間にどうやって抗えばええのかわからへん。
このまま進めば俺と名前の未来は交わらない?
どうしたらええかわからんでいると「部活遅れんで」とサムが迎えにきた。
「せやな」と返事をし、さっき聞こえてきた‘1組の佐藤くん’についてサムに教えてもらった。
爽やかなスポーツマンで、人当たりもよく誰からも慕われとるらしい。
「ツムとは真逆やな」と余計なことを言ったサムに飛び蹴りをかまし、勝算のない戦いに挑む絶望を感じた。
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