09

終業式を迎えて、目前に迫った夏休みにときめきを隠しきれないでいる。

夏といえば、海にプールに夏祭りといっぱいやりたいことがある。
友人は彼氏と行くらしく、恋する乙女の顔をしていてとても可愛らしかった。

私もこの4ヶ月間でいい感じになった隣のクラスの佐藤くんに夏祭りに誘われていて、友人からは「そこで告白とかされるんちゃう!?」と言われ、ドキドキが抑えられない。

今日はどんな髪型にしよう、浴衣は新しいのをお母さんが買ってくれたからそれを着よう、そう考えるだけで胸が弾む。


学校を終えて浴衣に着替え、神社のある駅で佐藤くんと待ち合わせをした。

少し早く着いてしまったけれど彼はもうそこにいて、私を見つけて笑ってくれた。

「名字さん浴衣着てきてくれたんやね
。かわええなあ」

そう褒めてくれたのが恥ずかしくて下を向いた。

神社についてまず手水舎へ行き手を清める。

「へ〜、神社ってこんなんやるんやな」と言った彼に「これから神様に会うのに身を清めるんやよ」と説明する。

『まずは清めんとあかんねん!神さんは大事にせんといかんって⎯⎯さんに言われたで!』

ふと聞こえたその声に、一瞬目がくらんだ。
誰、今の声。

「名字さんは物知りやね」という佐藤くんの声に我に返り「受け売りやねん」と笑う。
「親の?」と聞かれ「そうやね…」と曖昧に返した。

違う、うちの親じゃない。
確かに親に手水の意味は教えられたけれど、あんな偉そうに言ってきたりはしない。

「じゃあ身も清めたし、お参りして屋台でも楽しもか」

「せやね!私あんず飴食べたいねん」

「ええな、俺はかき氷かな」

モヤモヤする気持ちに蓋をして、あれも食べたいこれも食べたいと言いあい、全部は食べられないやろと笑い合った。

屋台も周って、そろそろ花火の時間になる。

「こっちにええ場所があんねん」と誘ってくれたところは少し神社を登ったところにあって、下の方にお祭りの光がキラキラと輝いてみえて綺麗だった。

佐藤くんが何か話そうとしている時、後ろの方に狐がいるのが見えた。

「狐…」そう呟いたらその狐がまるでこっちへ来いと言わんばかりに階段へと走っていった。

行かないと。
止める佐藤くんを振り切って走り出す。
狐は時折立ち止まっては私が追いつくのを待ってくれた。

石段を駆け上るとそこには小さな鳥居があった。
一対の狛狐が飾られていて、こんな上の方にお社なんてあっただろうかと不思議に思う。

振り返るとさっき通ってきた石段は消えていて、祭りの喧騒も聞こえなくなっていた。

『俺、名前と隣でずっと笑い合ってたいねん。付き合うてくれませんか』

頭に響いた声に、涙が出た。

そうだ、夏祭りで告白されたんだ。
なんで忘れていたんだろう。

自分に自信がなくたって、侑はずっと隣にいて笑ってくれてたじゃないか。
その侑が結婚しようっていってくれたのに曖昧に流して。

侑が傷付かなかった筈がない。
先に傷つけたくせに、自分が傷ついたからって全部なかったことにしようとするなんて。

侑に会って謝ろう。
私も傷ついたって伝えよう。
大丈夫、きっと仲直りできる。



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