カバノキ

高いヒール、大人びたワンピース、いつもより濃い化粧、彼と並んだ時に妹と思われるのが嫌で少しだけ背伸びをする。

今日は私と松川一静さんとのはじめてのお家デートだ。
今まで絶対に二人きりにならなかった一静さんに、今日は私の誕生日だからプレゼントだと思ってと無理を言って取り付けた約束。

一静さんはすごく真面目だ。

私と知り合ったときはまさか高校生だと思っていなかったみたいで、仲良くなっていい雰囲気になったときに何か思うことがあったらしく年齢を聞かれた。
素直に自分の年齢を言えば「高校生かぁ…」と頭を抱えられてしまい、その場は付き合うとかもなく家に帰された。

その後、連絡をしても返って来ず無理矢理会いにいって、やっとのこと会えたと思ったら「大人は子どもに手は出しません」と全拒否。

流石に傷ついたけど好きになってしまったら一直線の私は「大人が逃げるのはずるいです!18歳になったらいいんですよね!?」と啖呵を切って、それまではお友だちでいましょうと約束をして帰った。

それ以降は人目のあるところで絶対に二人きりにならない、夜ご飯は家で食べることという今時の中学生ですら守らない約束をさせられ逢瀬を重ねた。

いや、本当に会ってただ遊ぶだけなのだけれど。
そして今日、私が18歳になったのでやっと二人で会ってもらえるのである。

待ち合わせの駅へ着くと一静さんはもう来ていて『着きました』とLINEをいれればすぐ私を見つけて手を振ってくれた。

「おはようございます」

「うん、おはよう」

頭を撫でられ、にっこりと微笑んでくれる。

い、今までそんなスキンシップしてくれたことないのに!と私の頭の中は大騒ぎで、でも18歳になった私の余裕を見せねばと笑い返し「行きましょうか」と言う。

「映画何見たい?」そう聞かれたので考えてきた映画を何個か伝えると一静さんは「その中ならこれが見たいな」とオレンジの花の橋を男の子と骸骨が渡っている表紙のものと美しい海が描かれたものを手に取った。

レジへと向かい、会計を済ますと「一本2時間くらいかかるから何か昼飯でも買って行こうか」と言われ、連れられてきたのはお洒落なテイクアウト専門のカフェ。

「どれがいい?」と聞く一静さんに「観ながら食べるならサンドイッチとかですかね?」と返せば私の好き嫌いを聞いて、何個かカゴに入れ飲み物も注文し、サラリとお会計を済ましてくれた。

「払います!」と言ったけれど「さっきのBlu-ray借りてくれたからお礼」と財布すら出させてもらえなかった。

しばらく歩くとマンションがあり「ここが俺の家」と教えてくれた。

部屋に着くと一静さんは「何もお構いできませんが。適当に寛いでて」と言ってキッチンの方へと消えていった。

初めてくる男の人の部屋に私の心臓はバクバクで、とりあえず座ったはいいけれど落ち着かなくてキョロキョロと部屋を見渡した。

「見ても面白いものなんかないよ」と笑って戻ってきた一静さんの手には、お菓子がのったプレートがあって「お昼には早いからね」と机に出してくれた。

「じゃあ観ましょうか」と先程借りてきたBlu-rayが入った手提げを開けようとしたら「ちょっと待って」と止められた。

何かと思って一静さんの顔をみれば真面目な顔をしていて、私も慌てて佇まいを直した。

「こういうのはちゃんとしないとね」と一静さんは前置きをして「名前ちゃん、18歳のお誕生日おめでとう。今まで約束守ってくれてありがとうね」と言ってくれた。

「名前ちゃんからしたら俺なんておっさんだろうけど…大切にするので付き合ってください」

まさか一静さんから告白してくれるとは。
嬉しい誤算に緩む頬を引き締め「私、出会った時から一静さんのことが大好きです!」と飛びつけば優しく抱きしめてくれた。

「ありがとう名前ちゃん」と微笑んだ一静さんに精一杯背伸びをしてキスをすれば「悪い子だなあ」と余裕の笑みで少し大人のキスをされた。

真っ赤になってかたまっていると「好きだよ」と耳元で囁かれ「これ、プレゼント」と袋を渡された。

「開けていいですか?」

「うん、気に入ってくれればいいんだけど」

梱包を解いて蓋を開ければそこにはネックレスがあった。
高校生の私には少し大人っぽいデザインで、クリアブルーの石とパールで作られたリングがまるで海のように輝いて見える。

「素敵…」思わずそう呟けば「このデザインなら長く使えるかなって思って。気に入ってくれたならよかった」と胸を撫で下ろした。

「さ、映画でも観ようか」とくっついていた身体を離され、一静さんは私の手からするりと手提げをとりレコーダーへとディスクを入れた。

隣に座ろうとしたら「そこじゃないでしょ」と膝をポンポンと叩かれ、「お邪魔します」と座れば後ろから抱きしめられる。

「緊張してるの?」と耳に息がかかるくらいの距離で話され、「一静さん!揶揄わないでください!」と悲鳴のような声で叫んだら「ごめんね、可愛くてつい」と笑われた。

それでもその体制から変えることは許されなくて、映画を観ている2時間ずっと抱きしめられていた。
当然映画の内容なんか頭に入るわけがなかった。

映画を見終えた頃にはお腹も空いてきて、朝買ってきたサンドイッチを口に入れる。
今まで私が食べてきたサンドイッチは何だったのだろうというようなおいしさに、夢中になって頬張ると一静さんは「リスみたいだな」と可笑しそうに肩を震わせた。

ご飯も終え、もう1本借りてきた映画を観るために先程の姿勢へと戻る。
一静さんの逞しい腕が私を優しく抱きしめてくれるのがとても嬉しい。

「ニコニコしてどうしたの?」

「えへへ、一静さんのことが好きだなあって」

「名前ちゃん、そういうコト言うのは反則…」

思わぬところで照れた一静さんに、照れてます?と揶揄ったら頬へ手を添えられ、深いキスをされた。

口の中に入る舌に頭が溶けるのを感じると一静さんの唇が離れようとする。
離れたくないと追いかければもう一度だけ優しく絡んだ舌に下半身が疼くのを感じた。

「続きは卒業したらね」

ニヤリと笑った一静さんをみて、今までどこにそんな色気を隠していたのかと問いたくなった。


花言葉:あなたの落ち着きと優しさがステキ


みに様、リクエストありがとうございました。



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