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普段人とあまりつるまない彼女が応援団になったと聞いた。

部活終わりに「名字さんてそういうのやりそうにないのに珍しいよね〜」なんて話し始めたのは及川だったと思う。

「体育祭ってさ〜、結構カップルできるじゃん?」

「あー、体育祭マジック?よくあるよな」

「岩泉とか体育祭直後めっちゃモテるもんな」

「ホントだよ!岩ちゃんなんてただのゴリラなのに!」

「うるせェクソ川ボゲェ!!」

「ちょっと岩ちゃん蹴んないで!!」

いつも通りのやりとりだった中に気になるワードがあった。

“体育祭マジック”

幸いにして運動部の俺は競技に出る回数も多い。
あと恋愛競技と名高い借り物競争にもでる。
当たり外れは多いけれど、うまく当たれば名字さんに意識してもらえるかもしれない。

最初こそ地味な子だなぁと思っていたけれど、初めて休日に会ったときにドストライクな見た目に心臓が止まるかと思った。

それ以来意識しないよう努めてはいるけれど、下を向いた時の長いまつげとか、白い肌、スラっとした細い腕、よく見れば見るほど胸は高鳴った。

できれば付き合いたい。
そう思った矢先に体育祭の練習で毎週月曜の約束もなくなってしまった。

さて、どうしよう。
そう思った矢先の“体育祭マジック”という言葉。
これを利用しない手はないのではないだろうか。

及川が仲のいい女友達に俺が名字さんのことを気になっていることをさりげなく匂わせ、それを汲み取ってくれた彼女が上手いこと応援団の中に浸透させてくれた。

及川曰く「マッキーが好きなのを伝えるより、名前ちゃんが好きなんじゃないかって思わせる方が効率良さそう」
「人の恋愛って楽しいよね。外堀から埋めてこうよ」と悪い顔で笑った。

それが功を奏して、応援団や派手なグループの中では名字さんが俺のことを好きらしいということが広まった。

ちょっとズルかっただろうかと思ったが、それくらいしないと意識もしてもらえなさそうだから仕方ない。

そして今、悪い顔をしているであろう及川からLINEが届いた。

『マッキー、作戦成功』

スマホの画面を見て、俺もニヤリと悪い顔をした。



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