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夏祭りはサムに「一緒行かへんか」と誘われたが名前が佐藤と行ってるところに行きたくなくて断った。

動かなければ何も変わらないのはわかっているけど、先程の会話を聞けば名前と佐藤は両片想いで今日告白されるかもしれないらしい。

他の男と付き合ってほしくなんかない。
でも、俺と名前は特に仲が良いわけでもなく、ただのクラスメイト。
どうやっても俺が入る隙なんかあらへん。

部活も身が入らなくてサムにはポンコツって言われるし北さんにはやる気がないなら帰れって怒られるしで最悪やった。

家に帰るのも嫌で体育館でぼーっとしてたら、北さんに声をかけられた。

「侑、今日はどうしたんや」

「あー…ちょっと悩み事です…」

なんて説明してええかわからなくて誤魔化すと「恋か?」と北さんの口からとんでもない言葉が聞こえた。

思わず口に含んでいた飲み物を噴き出すと「汚いことすんな」と怒られた。

北さんは少し考えた後「悩んどるならお稲荷さんへ行ってみるとええ。導いてくれるかもしれんで」と言い、そのまま帰っていった。

そういえば、俺がここにいるのもあのお稲荷さんに行ったからやったと思い、急いで家へ帰ってシャワーを浴び出かける準備をした。

北さんの家へと向かう途中、今頃楽しくやっているであろう名前を思いため息をついた。
本当なら隣にいるのは俺やったのに。

駅に着いてお稲荷さんへ向かうと、入り口に小さい狐がおった。
まるで俺を待っているかのような姿で、近づけば走って逃げて、見失いそうになると止まってくれる。

狐を追いかけていくと、そこには夏祭りに行ったはずの名前がおった。

なんでここに?
佐藤はどうした?

かける言葉が見つからず立ち尽くす俺に名前が口を開いた。

「侑」

宮くんではなく、侑。
驚いて息ができなくなるかと思った。

「侑、ごめん…傷つけた。仲直りしたい。今からでも間に合う?」

そう名前は謝り問うた。

「ちゃう、謝るのは俺の方や。隣におってくれるだけでええのに、結婚に拘って。あの時、見てたやんな?すまんかった。もう二度とせえへん」

「うん、傷ついたよ。今までのこと全部なかったことになればええのにって思った。でもね、それ以上に侑と離れるのが嫌やったみたい」

「もう、高校生も終わりでええ?」

「うん、大丈夫。侑、帰ったら伝えたいことがあるの。聞いてくれる?」

「それは…俺から言わしてもらいたいからダメやな」

そういえば名前は笑って「楽しみにしてる」と言った。

二人で目を閉じて唇を合わせれば、あの時感じた生暖かい風が吹き、暗かったはずの景色は昼の明るい風景へと変わった。

「帰ってきたんだね」

「おん」

先程まであった幼い顔の名前はもう目の前にはいなくて、代わりにずっと会いたかった名前がいた。

「名前。これからの名前の人生を俺にください。隣におって笑ってくれるだけええねん」

「ごめんね、侑。それじゃ満足できへんみたいなん。私、侑と結婚したい。待たせてごめんね」

そう言って笑った名前は今までで一番綺麗で、幸せってこういうことを言うんやなと思った。



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