センニチコウ

「気持ちええなあ」

しみじみとつぶやいたのは俺の幼馴染兼彼女である名前で、今朝早くからうちに来て農作業の手伝いをしてくれ、それが終わると疲れたと言って縁側に寝そべっている。

ほどよい日差しが当たる縁側はこの時期とても気持ちよく、寝転がりたくなる気持ちはよくわかる。

「名前、疲れたのはわかるけどそんなはしたない格好すんな」

汗をかいたのでシャワーを浴びたばかりの名前は髪を乾かすでもなく、濡れたままでいる。
いくら暖かい季節とは言え、風邪を引かれてはたまったもんやない。

「もう疲れて一ミリも動けんのや…」

本当に俺と同じ環境で育ってきたんかと言いたくなるようなそのだらしなさにため息をつき、バスタオルを手にして髪の毛を拭いてやる。

「あ〜、至れり尽くせりやなあ」

心底幸せだと言わんばかりの彼女の声に呆れて「アホ、風邪ひいたら会えんようになるやろ」と注意をしても「そしたら信介が看病しにきてくれればええやろ」と言う始末。

名前の親は共働きで忙しく、俺と名前は小さい頃から常に一緒におった。
幼稚園から帰るのも一緒、親が家にいない名前は帰ってくるまで俺の家で過ごした。

本当に四六時中一緒だったはずなのにどうしてこうも性格に差がでてしまったのだろう。

ばあちゃんに言わせると「信ちゃんに息抜きをさせるのは名前ちゃんが一番上手やなあ」とのことなので、俺には名前くらい緩いのが合うのだろう。

事実、その居心地の良さ故に付き合っているし、この先名前以外とおるとこなんか想像もつかん。

「ほら、ドライヤーあてたるからちゃんと座り」

「なあ信介、5年後も10年後も、もっと先もずっとこうして一緒におってな」

突然言われた言葉に虚をつかれたが、同じことを思ってくれる名前に愛しさが募る。

「最初に会うたときから離すつもりなんかあらへんわ」

そう告げれば先ほどまで気持ちよさそうに細まっていた目が大きく見開かれ「何その話!聞いてへんよ!」と叫ばれた。

「そらそうや、今初めて言うたんやから」

名前を初めてみたあの日、心から湧き上がる愛おしさに幼かった俺は運命ってこういうことを言うんやって思った。

名前がどう感じていたかは知らんけど、俺にとってはあれが初恋で、この先も貫き通す愛なのである。

「なあ信介もう少し詳しく話してや」

「名前がちゃんと服着替えて髪も乾かせば話してやらんこともないで」

その言葉を聞くが早いか、着替えを取りに走った名前に「できるなら最初から動け」と叱るも「そんなことしたら信介髪乾かしてくれへんやろ!」となんとも可愛い返事が来て、思わず笑みが溢れた。



花言葉:色褪せぬ愛


お題:満ち足りた時間



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