04
しばらくすると侑くんから『どこにいるん?』とメッセージがあり、体育館裏にいることを伝えると即OKのスタンプが送られてきた。
「名字さん!すまん、待たせてもうて…」
「気にせんでええよ。それより、試合呼んでくれてありがとう!」
「試合、どやった?」
少し緊張した面持ちの侑くんに尋ねられ、試合を観て思ったことを伝えれば得意げな表情へと変化していった。
「バレーしとる侑くんはすごくかっこええなあ」
「ほんま!?」
「うん、他校からも女の子が応援に来るのも納得やわ。侑くんがあんな人気やって知らへんかった」
「まあ、俺イケメンやしな!」
「あは、自分で言うん?」
「…でも俺は、そんなどこの誰だかわからんやつにされる応援よりも名字さんの応援の方が嬉しかったけどな」
いつもみたいにふざけた顔じゃなくて、すごく真剣な瞳でそういう侑くんに、心臓がギュッと掴まれたような気がした。
「そ、れは…」
「それに、その髪型。俺のためにしてくれたん?めっちゃかわええな」
「かわ…!?」
「いつものもええけど、今日のもすごいかわええよ」
侑くんがあまりにも優しい目で私を見るから、勘違いしそうになる。
そんな、バレーボールを見るときみたいに、慈しむような目で私を見ないでほしい。
好きな気持ちが溢れて、すぐにでも伝わってしまいそうだ。
「そ、そういえば侑くんは私に用でもあったん?」
雰囲気に耐えられなくて話題を変えると、侑くんは少し不服そうな顔をしながらたった今思い出したかのようにこたえた。
「ん?ああ、お願いがあって」
「お願い?」
「せやねん、お願い」
「な、なに?」
「名字さんのこと、名前で呼んでもええ?」
「ええけど…」
コホンと咳払いをし、真剣な目で私を見つめる侑くんの唇が私の名前をそっと紡ぐ。
「名前」
心臓が飛び出るかと思った。
今までも友だちに名前を呼ばれることはあったけれど、こんなにも愛おしそうに呼ばれたことは果たしてあっただろうか。
「名前」
「は…い…」
あまりの緊張に掠れた声がでたが、侑くんは気にすることなく「名前で呼ぶのええなあ」と嬉しそうに頬を緩ませた。
夢の中にいるみたいにふわふわした気分だ。
好きな人に名前を呼ばれるのがこんなに嬉しいなんて思わなかった。
「さ、帰ろか」
まだドキドキしている私の気も知らず、侑くんは私の手を引き正門へと歩いていった。
**
帰り道、バスで隣に座る侑くんと触れている肩がやけに熱く感じる。
少し動かせば触れることのできる指にわざと触れないでいるのは、お互いが今だけ味わえるこの距離感を楽しんでいるからだと思うのは自惚れだろうか。
彼の最寄りのバス停へ着くと、侑くんは私の頬を撫で「名前、また月曜にな」と言いバスを降りていった。
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