金木犀
私が白鳥沢に入学した時、五色先輩はもうすでにエースだった。
先輩たちから話を聞いてみると、2年前に卒業したウシワカ先輩がすごくて当時の五色先輩は強いけれどエースと呼ぶにはほど遠かったらしい。
『強者であれ』
横断幕に書かれた文字は絶対王者と呼ばれる白鳥沢に相応しく、疑いようのない強さの表れでもあった。
私はそのウシワカ先輩がいた頃の白鳥沢を知らないから今の白鳥沢をすごいと思っているけれど、その頃のうちはその三年生が宮城県大会決勝で敗れるまで負け知らずだったらしい。
ウシワカ先輩が引退してからは成績が振るわず、当時敗北を期した烏野高校に負けっぱなしで春高の東京体育館の地を踏むことはなかった。
それでも宮城県の中では強豪なのは変わらないのに、素人の私が思う‘すごい’は当人たちにとっては‘一位を取らなきゃただの負け’らしい。
どうしてこんな話をするのかというと、昨日その話で五色先輩と珍しく喧嘩をしたからで、なんで喧嘩になってしまったのかわからなかった私はいろんな先輩に話を聞くことにしたのである。
「ウシワカがいたときは強かったけどね」
「春高まで応援しに行ったよね」
「最近県大会で負けちゃうからな」
なるほど、五色先輩が落ち込んでいたのもこの辺が原因かと納得せざるをえなかった。
五色先輩はとても真面目だし、バレーに対して真摯な姿勢で向き合っている。
だから私が昨日「県大会準優勝おめでとうございます」なんて言ったとき怒ったのか。
知らなかったとはいえ失礼なことを言ったなと思い、謝るべく五色先輩を探す。
先輩はすぐに見つかった。
「五色先輩」
私が声をかけると、コートの中に佇んでいた先輩は私の方へ視線を向けた。
「名字…」
少し気まずそうに私の名前を呼ぶ先輩のもとへ歩く。
「先輩、先輩は引退してからもバレーを続けるんですよね?」
「当たり前だ!!」
食い気味にこたえる先輩に少し笑ってしまう。
「じゃあ、そこで先輩が今までの人たちを倒す様を見せてください」
「私の知っている先輩は、強い敵の前にも屈しないで怯まずにスパイクを決める先輩です」
「過去がどうだったかは知らないですけど、私にとっての一番のエースは五色先輩です」
「エースがそんな風に負け犬の顔してていいんですか?」
私の挑発に顔を赤くして怒りをあらわにしたが、すぐいつもの頼もしい五色先輩の顔に戻る。
「牛島さんも、烏野のあいつらも全員倒す!!」
そう言い切った先輩は格好よくて、私はこの五色先輩をみて好きになったんだとニンマリする。
「先輩、一つお願いがあるんですけど」
「なんだ?言ってみろよ」と自信を取り戻した五色先輩に更に近づき伝える。
「先輩の一番近くで応援させてください」
言葉の意味がわかった先輩は、顔を今度は違う意味で真っ赤にして「お、おまえ!」なんて吃っているけれど攻めるタイミングは逃したら負けだ。
「意味、わかりますよね?」
ニッコリ笑って腕に絡めば五色先輩は「応援頼んだからな」とそっぽを向いて照れ隠しに鼻をかいた。
花言葉:気高い人
みに様、リクエストありがとうございます!
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