レンギョウ

かわいいなと思っている子がいる。

名前は名字名前さん。

きっかけは入学式に教室で席を間違えて座っているやつがいて、本来その席に座るであろう子が教室の扉の前で固まっていた。

寝ているそいつのことを起こせばいいのに、眉毛をハの字に下げて心底困った顔をしている彼女に少し同情して代わりに起こしてあげた。

そうしたら今まで困っていた顔がみるみるうちに嬉しそうな顔へと変わり、そのかわいさに気づけば恋に落ちていた。

同じクラスといえど席も近くないし委員会も違うし部活は勿論別。
お近づきになりたくてもそのきっかけが掴めずにいた。

一年生の冬、そんな俺に好機がきた。

その日は大雪の予報で、部活がいつもより少しだけ早く終わった。

玄関で靴を履き替えて出たら目の前に名字さんが傘も持たずに空を見上げているのが見え、まさか傘を忘れたのかと心配して見ていれば意を決したようにそのまま雪の中へと進もうしたのだ。

傘がないなら職員室にでもいけば貸してくれるのに、それもしないでそのまま行こうとするとは思わず、慌てて傘を開き彼女の頭上へとさした。

急に出てきた傘を不思議に思ったのか彼女は顔を上に向け傘を確認すると、俺がいる方へと向き直り名前を呼んだ。

「松川くん…」

「名字さんまさかこの雪の中傘もささずに帰るつもりだった?」

彼女が困った顔をしたので「もしかして傘持ってない?」と聞くと「今日忘れちゃって…」と返ってくる。

この機会を逃さないようなるべく自然に誘う。

「俺の傘でよければこのまま入っててどうぞ」

「滅相もない!」

「はは、なにそれ。風邪ひいたら困るでしょ。もうちょっと近くにおいで」

少し強引に言えば彼女は顔を赤くして俺の方へと寄ってくれた。
これは期待してもいいのかな。
少し欲が出て「えらいえらい」と頭を撫でると彼女は抵抗することもなく気持ちよさそうな顔をした。

駅まで隣を歩く間、今日はなにしたの?なんて他愛のない話をしていて自惚れではなくこれは両想いだなと思った。

駅までの道はいつもよりも短く感じて、傘を閉じて彼女に「気をつけてね、また明日」と手を振る。

振り返してくれた彼女の笑顔に心の中で、もう少しこの距離感を楽しんだら告白しようと誓った。

雪は寒くて冷たかったけれど、少し縮まった彼女との距離に俺の心は暖かかった。 



花言葉:期待



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