04

あれから急な仕事がふってきてしまい、コンビニで夜ご飯を買い、夜遅くに家に帰ればシャワーを浴びすぐベッドへと向かう日々が続いていた。

そんな仕事も今日でひと段落し、やっとゆっくりできると自分へのご褒美も兼ねておにぎり宮へと足を運んだ。

「いらっしゃ〜…名字さんやん!!」

暖簾をくぐれば宮さんが驚いた声で私のことを呼び、カウンターから身をのりだした。

「お久しぶりです、仕事が忙しくてなかなか来れなくて…」

「名字さんの先輩は来てはったからなんか気に障ることでもしたかと思っとったんよ」

宮さんは「ホッとしたわ〜」といい「注文なににする?今日のおすすめはすきやきやで」と教えてくれた。
「じゃあすきやきと梅をお願いします」と注文し、カウンターへと座る。

先輩に頼んで一言でも伝えてもらえばよかったかと思ったが、忙しすぎてそれすらも忘れていたのは許してほしい。
そういえばLINEもあれ以来送っていなかったので感じが悪かったかもしれない。

店内は閉店時間も近いことから店主である宮さんと私しかおらず、静かで穏やかな時間が流れる。
何か話さないと変だろうかと話題を探していると、お店のドアが勢いよく開いた。

「サム〜!!!ネギトロ!!!」

大きな声で入ってきたのは目の前にいる宮さんと同じ顔の人で、そういえば先輩が宮さんは双子だと言っていたなと思った。

「ツム!お客さんおるのが見えんのかアホ!」

普段おっとりした喋り方をする宮さんがもう一人の宮さんに怒っているのをみてこういう一面もあるのかと驚いた。

「お?こんな時間に食べてはるなんて今までお仕事だったん?お疲れ様やな〜!お姉さんビール飲める?」

勢いに押されつつ頷けば「サム!このお姉さんと俺にビールくれや!」と言い、当然かの如く私の隣へと腰掛けた。
何だこの人コミュ力オバケか?と思いびっくりしたら「あ、はじめましてやんな?宮侑です〜。侑くんて呼んでな!」なんていうもんだから釣られて私も自己紹介してしまった。

おにぎりとビールが届き「乾杯〜」とグラスを交わしていると、宮さんがお店の暖簾をしまいだした。
慌てて立ち上がれば「ツムが来たから今日はもう閉店や。名字さんもゆっくりしてってくれてええよ」と言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。

宮さんは「俺も飲もう」とビールをグラスに注ぎ、私の隣へと座った。

「名前ちゃんはサムの彼女なん?」

爆弾を投下してくれた侑くんに「違います!」と否定すれば「これからやこれから!!勝手に名前呼ぶなやアホツム!」と左から宮さんが言い「名前で呼んだってええやん!な?」と右から侑くんに聞かれたので「それは構わないですけど」と言えば「アカン!!」と食い気味に言われる。

「必死か!」と大笑いしてる侑くんと「ふざけんなツム!」と怒ってる宮さんに挟まれ、久しぶりに楽しい時間を過ごした。
どうやら宮さんは侑くんといると精神年齢がさがるらしい。

終電もあるのでこれで失礼しますね、とお会計をしようとすれば「俺が出すから気にせんといて〜」と侑くんに言われるが、それも申し訳ないのでおにぎりの代金だけ払わせてもらった。

お店を出て駅へと向かおうとしたら、後ろから「名字さん!」と呼び止められ振り向くとそこには宮さんがいて、「暗いから送ってくわ」とさらっと言われ思わずときめいた。

「今日はツムがすまんかったなあ」

「いえいえ、宮さんも侑くんも仲良しで楽しかったです」

「それ!!俺のことも名前で読んでくれへん?」

急に宮さんに言われ言葉に詰まった。

「アカン?」

「いや、その、急に言われましても…」

「ツムだけ侑くんて呼ぶんずるいやん」

少し頬を膨らましていうあたりずるい。
自分の顔がいいのをわかって最大限利用してるとしか思えない。
店での会話も含め、もしかしてなんて思ってしまっている自分がいる以上名前を呼ぶのは少し恥ずかしい。

「お、治くん…」

蚊の鳴くような声で言えば治くんは頭を撫でてくれた。
きっと私の顔は真っ赤だったと思う。

駅までの道はあっという間で、お礼を告げれば治くんは「気にせんといて」と言ってくれた。

「あ、でも…いや…」

「どうしました?」

「んー…名前ちゃん、今度の祝日空いてたりする?」

サラッと呼ばれた名前にドキッとしたが、祝日?と慌てて手帳を確認し、何の予定もないことを伝える。

「その日、お店お休みなんよ。もしよかったらなんやけど…どっか行かへん?」

「えっ」

「ダメなら無理にとは言わんけど…」

「いや!そんなことは!!!」

「ほな、どこ行くかとかはまた決めような。家まで気をつけて帰るんやで」

そう手を振られ、その場にとどまるわけにもいかず手を振りかえし改札へと向かった。

電車にのり、ピコンと音がしてLINEをみると「デート楽しみやな!」と治くんからきていた。
「そうですね、楽しみにしています」なんて堅い返信をしたものの、私の胸はデートという言葉に何年振りかわからない高鳴りを感じていた。



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