03

言われた通り抜けたところで待っていると、一静さんが来て「じゃあ囚われのお姫様と逃避行でもしようか」と私の手を取って笑う。

「まずはどこに行きたい?」

「私、外のことを何も知らないからどこへ行ったらいいのかわからないの」

私の言葉におや、という顔をして「じゃあ俺が連れて行くところはどこも初めてだね。それは連れて行き甲斐があるなあ」と言ってくれた。

そこから一静さんが連れて行ってくれたところは、意外にも小高い丘にあるガゼボだった。

もっとお洒落な喫茶店とか劇場とかに連れて行ってくれるものだと思ったので拍子抜けしてたら「ほら、どうぞ」とベンチにハンカチを敷いて、行く途中に寄った喫茶店で買った飲み物を渡してくれた。

「刺激的なところへ行くのも悪くはないけど、今日は天気がいいからこういうとこで季節を感じながら美味しいものを食べるのも良いものだよ」

敷いてくれたハンカチの上に座り手渡された飲み物を口に含むと涼しい風が吹いた。

耳をすませば小鳥の囀りや木々のざわめきが聞こえ、季節の移ろいを感じる。
そういえば、こうやってゆっくりするのも久しぶりかもしれない。

「甘いのは好き?」そう聞かれて頷いたら、どこから出したのか細長いお菓子を渡された。

シナモンのいい香りがして、口いっぱいに頬張ると砂糖の甘さが口の中へ広がった。

「美味しい…!」

「チュロスっていうんだけど、お気に召したみたいでよかった」

「一静さんは素敵なことをいっぱい知っているのね」

目を輝かせてそういえば「そうだといいね」と少し遠い目をされてしまった。

「さ、お嬢様、満足したらお家に帰らないと」

一静さんはそう言って私を家まで送って行ってくれた。

「また会える?」

「お嬢様が望むならね」

「私は会いたいわ」

「じゃあ近いうちに会えるよ」

抜け道を抜ければいつもの家で、さっきまでの出来事が夢のように思えて仕方なかった。



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