芍薬

「名前ちゃんは岩ちゃんに告白しなくていいの?」

サラッと言われた言葉にギョッとして、慌てて周囲を確認する。

「及川くん!そんな大きい声で言わないで…!」

「岩ちゃんならまだ教室だから大丈夫だよ〜」

「そう言う問題じゃないよ!」

「だって名前ちゃん俺たちもうすぐ卒業だよ?進路も違うのにこのままなにもしなくていいの?」

及川くんの言葉は尤もで、私と岩泉くんの間をとりもってくれていた及川くんは卒業したらアルゼンチンに行ってしまうし、進路の違う私たちは疎遠になること間違いなしだ。

「今までバレー一筋だった岩ちゃんが引退してやっと他のことにも目を向け始めたんだよ?今告白しなくていつするつもりなの?」

「告白するの前提なの!?」

「名前ちゃんは岩ちゃんの隣に他の女の子がいてもいいんだ」

「う…それは…よくない…」

及川くんに言われて岩泉くんの隣に誰かがいることを想像してみたが、胸の中に黒いモヤモヤが広がるのがよくわかる。

「告白…してみる!!」

「そうだよその意気だよ!」

なんて話をしたのが一週間前。

その間、及川くんが「岩ちゃんも罪作りだね!」と私の方を向いて言ってきたり、花巻くんが「名字さんなんか岩泉に言いたいことあんじゃねぇの?」なんて雑なパスをしてくれたり、松川くんが気を利かせて二人きりにしてくれたりと本当に色々してくれたのに、未だに告白できないでいる。

いざ岩泉くんを前にすると緊張して言葉が出なくて「すきです」の一言が言えない。

「す…すき焼き食べたいね!」とかベタなことをいって及川くんに心底呆れた目で見られて心の中で土下座したのも記憶に新しい。

そして今日、最近の挙動不審具合があまりにひどかったらしく岩泉くんに呼び出された。

「名字、なんか悩みごとあるなら聞くぞ」

あなたに告白することができなくて悩んでます!なんて言えたら悩んでないんだよなあと思わずため息がでる。

「ほら、またため息ついてんじゃねぇか。俺でよければ聞くから言ってみろよ」

言葉を促され、女は度胸!と自分を鼓舞し、さあ告白!と意気込んだところで疑問がふとよぎった。

あれ、そういえば岩泉くんってバレー一筋ですごい真面目な性格なのにこんな勢い余って告白なんてしていいのだろうか。

もっと、シチュエーションとか考えてちゃんと言葉を伝えるべきでは?

と、いうかまず私たちって友だちにすらなってないのでは?

あ、岩泉くんが私の言葉を待ってる。
何か言わないと…と慌ててたのがよくなかった。

「お友だちになってください!!」

後ろの方で盗み聞きをしてた及川くんたちから「名前ちゃん違うでしょ!」「お前それはないだろ!」「名字さんって天然?」とツッコミが入り、当の岩泉くんからも「悩んでたのってそれか?」と少し呆れた声で聞かれた。

「卒業したらもう会えなくなっちゃうのかなと思いまして…」と素直に伝えれば「名字さえよければ俺は付き合いたいけどな」と言われた。

「えっ、ちょ!!岩ちゃん!!!」

「流石岩泉!!!」

「男前がすぎる」

及川くんたちが隣にいるのに当たり前のように告げられた言葉に顔から火が出るかと思った。

「返事ははい以外聞かねえけどどうすんべ?」

「いや、それ聞く意味!」なんてつっこむ及川くんだけど彼は私の方をニヤニヤしながら見ていて、早く返事をすれば?って目が訴えている。

「あの…じゃあ…よろしくお願いします」

「おう」

出された手を握れば「これからよろしくな!」といつものニカっとした顔で笑ってくれて、こういうところが好きなんだよなあと思った。



花言葉:恥じらい

愛音様、リクエストありがとうございました!



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