スイセン

「この間合コン行ってさ〜、なんかいい感じになった人と今度の土曜にデート行くんだよね」

ポロッとそんなことを言ったのはひょんなところから体の関係になった名前で、最初こそ遊びだったけれどお互い相手に何も求めないのが楽で最近はよく寝食を共にしていた。

俺としては半同棲状態だったし、告白とかはしてないけれどほぼ彼氏みたいなもんだと思っていた。

だから名前からそんな言葉が出たこと自体驚きだったし、じゃあこの生活はなんだったんだと声を大にして聞きたかった。

「私に彼氏ができたら二口とはもう会えないね〜」

「え、お前彼氏出来そうなの」

辛うじて出した言葉がそれってダサすぎると我ながら凹むけれど、マジでこの展開は予想外で俺もテンパっていたのだ。

「そうなの。あ、見てこの人。カマサキさんって言うんだけどさ。筋トレが趣味らしくていい体してんだよね〜」

挙句見せられたのが高校時代の先輩である鎌先さんで、何でよりによってこの人なんだよと思わずにはいられなかった。

「この人の事好きなわけ?」

「そろそろ彼氏ほしいなって思ってたし、悪くないかなって思ってるよ」

にこにこと笑いながら話す名前に、苛立ちが増し「お前今日もう帰れ」と外へ放り出した。

「え、二口なに機嫌悪いの?意味わかんな〜い」

ぶーぶー文句を垂れながら投げ出された荷物をとって「じゃ、彼氏できたら報告すんね!楽しみにしてて!」と追い討ちのように声をかけられ閉めた扉の内側で盛大なため息をつく。

まさか恋愛対象にすらなっていないとは思わなかった。
畜生、吠え面かかせてやると悪態をついてあいつのデート相手である鎌先さんへと久々に連絡をした。


そして土曜日、俺のところへくるよりも可愛い格好をした名前を待ち合わせ場所でみつけ声をかける。

「あれ、二口じゃん。どしたの?」

「今日のデート、俺が相手だから」

「は?カマサキさんは?」

「あの人俺の先輩。譲ってもらった」

「え?どういうこと?」

「お前マジでふざけんなよ。鎌先さんに恋愛事で頭下げんのとかありえねぇんだけど」

鎌先さんに事情を話したら快く譲ってもらえたのは幸いだったけど、俺の失態が面白かったらしく死ぬほど笑われたのは本当に一生の恥だ。

思い出すだけで腹が立って隣にいる名前に八つ当たりをする。

「スタバでも奢ってもらわねえと割に合わねぇ」

「待って待って、マジで話ついていけないんだけど?」

「空気読めよ。お前には俺がいんだから彼氏なんかいらねぇだろ」

「いやいやいや?私も彼氏ほしいよ?」

「だから!俺が彼氏になってやるって言ってんの!」

もっと言い方があっただろ、とか思わなくもないけど気づかない名前が悪い。

驚く名前の手を引いて「ほら、デートすんだろ。行くぞ」と声をかければ「もっと優しい彼氏がいいんですけど〜?」と不満が漏らされた。

でもその顔は少しだけ嬉しそうだったので、それに免じてちょっとだけ優しくしてやるかと思った。



花言葉:うぬぼれ


お題:遊びから始まる本気



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