「ねえ、独歩」
「独歩はいつも寝たいって言ってるのに私が寝るまで必ず起きてるよね」
「...それもしかして私が原因だったりする?」
違う。それはーーー
ピピピピ、と手の届く距離から音が鳴っている。俺はすぐそれに手を伸ばしてアラームを止めた。目を開けた途端遮光カーテンから漏れる光が眩しくて咄嗟に手影を作る。反対の手でカーテンを閉めてからスマホで時間を確認する。土曜の朝七時。いつもなら陰鬱な気分で支度を始める時間だが今日は違って何週間かぶりの土曜休みだ。仕事のことを忘れて名前とゆっくりしたい。俺の右側でまだ眠っている名前の方に体を向ける。寝顔がよく見たくて前髪を自分のささくれた指で払った。俺の腕の中で寝息をたてて寝てる姿はとても可愛い。そう伝えたくて名前の小さな頬にそっと顔を寄せてキスをする。ああこんな俺が幸せでいいんだろうか。アラサーの社畜で人付き合いが下手くそな隈がやばいオッサンの俺が。彼女と付き合って飯を作ってもらっていつも俺を見てくれる。周りの奴らはこれが普通と言うが俺にとっては身に余りすぎる幸せだ。だから、今は少しだけこの幸せに貪欲でいたい。
「...名前」
彼女の眉の少し上を親指でなぞる。昨日の夜、彼女が俺にしたように。すると彼女の睫毛が小さく上下して茶色の瞳が俺を捉えた。
「悪い、起こしたか?」
「いや、全然」