悪辣ピエロ 7
その日は朝から捜査会議となった。当然だ、姫川班がもたらした情報により状況が一転したのだから。
会議後に所轄との組み合わせが発表され、それぞれの捜査へと入る。
日下や橋爪などは、証拠が不十分ということもあり信じきれないといった顔をしていたが。
「それであなたは、茅野千紗さんのストーカー被害と曽根崎啓子さんの事件とが似ていると思った、と?」
玲子は所轄の刑事とともに、昨夜千紗の口から出た芝村弘也に聞き込みにきていた。
芝村は写真での印象通り細めの体つきをしていて、だがスポーツでもしているのか思ったより筋肉質かもしれない。折れそう、という言葉は撤回する。
「そう、友達とも話してたんすよ。茅野ちゃんとも仲いい子なんですけど」
「名前をうかがっても?」
「はい。笠木陽菜です、時々三人とかでメシ行ったりするんすよ」
明るい、今時めいた青年だ。見るからに若いが、下手をすると千紗よりしっかりして見える。
芝村がジーンズの後ろポケットから携帯を取り出した。操作して画面を向けてくる。画像フォルダの写真、千紗ともう一人の女性とが並んで写ったものだった。
「なんだったら呼んでみましょうか? 仕事かもしんないすけど」
「お願い出来る?」
「はーい」
大学生の芝村は取っている講義が今日は午後からということで、あらかじめ得ていた携帯の番号に連絡し、接触することに成功していた。友人の笠木は社会人らしく、サービス業だという話だからどうなるか。
と、携帯を耳に当てた芝村が玲子を見ながら親指を立ててみせた。頷くと、今いる喫茶店の名を告げて携帯が畳まれる。
「休憩もらってすぐ来るって。昼休憩先取りすんのかも、ここにいられるのは四十分弱ってとこじゃないすかね」
彼が言うには片道十分程度の距離に職場となる書店があるらしい。自分のことでもないのに前もって制限された時間を提示するとは気の回る青年だ。
そしてその言葉通り、昼休憩をもらったと十分後に笠木陽菜が現れた。
白シャツに黒のパンツ、仕事着だろうか。黒髪に中肉中背といった、特に目立つところのない女性。千紗と友人であることがタイプ的に納得出来る感じだ。
「かやのん大丈夫ですか?」
「ええ、昨日は顔色が悪かったけど今日はだいぶよくなってたから」
「そうですか。よかった。最初は警察であんまり相手してもらえない感じだったみたいで心配だったんです」
最初というのは菊田が出させたという被害届のことか。
相手もわからず物証などもなければ警察は動かないし動けない。ストーカー事件は単なる思い込みということもあるが、間近で間違いなく怯える友人がいたら見ていられなかっただろう。
「でも警察に保護してもらったんならもう大丈夫だよ。茅野ちゃんにそんな知り合いがいたなんてよかったよな」
「そうだね。頼りになる方のお兄ちゃんって言ってたもんね」
――あら菊田。妹からの評価は高いみたいよ。
芝村と笠木はいくらか心配から解放された様子で、注文した飲み物に口をつけている。芝村が軽食を追加注文する。笠木の昼食にということらしい。
「姫川主任」
「ええ。お二人は曽根崎啓子さんとの面識は?」
「ないです。ニュース見て、年が近いし、場所も近いし、怖いなって思って」
「茅野さんが受けている被害と似てるっていうのはいつ思ったの? 詳細までは報道されてないはずだけど」
「それは……」
玲子に向き合っていた笠木が芝村に視線を送る。それを受けて芝村は苦笑いを浮かべた。
「ネットっすね。茅野ちゃんのストーカーの話を聞いて、なんか出来ることないかって調べてたら曽根崎さん? の事件について書かれたページが出てきたんですよ」
なるほど、どんな事件もおもしろ半分にインターネット上に出回ることは多い。
「ざっと目を通して、まさかとは思ったんすけどヒナともここが似てるとかいう話をして」
「見てみたら、かやのんから聞く話そのままみたいな気がして、怖くなって……」
「気をつけてほしくて茅野ちゃんにも教えました」
怖がらせちゃったけど、と芝村が頬を掻いた。それはそうだろう。気をつけろと言われてもどう対処出来るというのか。
「確かに何もわからないよりは命すら狙われてるって構えてた方が警戒出来るかもしれないわね」
二人にはそのほか数点の質問と千紗との関係を聴取し、別れた。
「かやのんに会えますか?」との問いには「そのうちね」とだけ答えた。本人にも近親者でさえ注意して接触するよう言っておかなければ。どこでどんな情報が漏れるかわからないのだから。
「茅野って子、いい友達持ってますね」
「……そうね」
出てきたばかりの喫茶店を振り返る。見つめながら長い髪を掻き上げると、玲子はバッグを肩にかけなおし、眉間に皺を寄せながらもその場をあとにするのだった。
心痛めし友と
――浮かぶ感覚を腹に抱え
執筆:12.05.08