悪辣ピエロ 9
部屋の鍵は預かっていた。菊田が盗聴器などのチェックに走っていたし、また何かしらが送りつけられてきた時に本人を介さず回収するためだ。
連絡の入った玲子は湯田が持ち帰った携帯を証拠品として提出するとともに、送られてきた写真の検証をすべく走った。
しかし、成果は得られず――。
メールの送信者はフリーアドレスで、登録されていた名義は偽称、アクセスしていたのも複数のインターネットカフェからで時間帯もバラバラ、防犯カメラに映る同一の姿も見あたらなかった。
また、写真に関しても同様。誰もが撮影可能なポイントから撮られたものであり、目撃情報もない。写っているのが盗撮と思しきアングルであること、捜査し始めたばかりの玲子や菊田の写真まであること、それらを除けばおかしな点もない。いや、それこそが最もおかしな点なのだが。
「新たな情報はなし、か」
デスクに資料を広げて、玲子が椅子で腕を組む。わかったことは、ストーカーにしてはかなり念入りに証拠を消した計画的な犯行だということか。まるで最初から順を追っての流れを決めていたかのような。
「主任、気になることが」
「なに?」
午後からはホテルで警護に入っていた葉山が、菊田と交替して戻ってくるなりそう口にした。
十係の大部屋には姫川班以外にいない。今泉は外へ出ているし、日下班はまだ捜査に出払っているようだ。
「これってストーカーなんでしょうか」
困惑混じりの表情を浮かべているのは、事件の根本を覆すような言葉だと自覚しているからか。
石倉は腕を組み低く唸る。湯田などは目を白黒させて。
「え、だってつきまとって監視してってストーカーじゃないんですか!?」
「それがおかしくないか? つきまとって、それで何がしたい? 見てるだけでいいなら監視してるってアピールする必要はない」
「いやまぁ、そうかもしんないすけど」
「好きだから恨んでるからつきまとう。例外はある。けど、声が聞きたいからとか反応が見たいから電話して、そんな風に理由ってものが存在するのが普通じゃないかと思うんです」
「このヤマにはそれが感じられない、か。主任、わたしもストーカーと安易に断定出来ないものを感じてます」
葉山と石倉の二人が、否、玲子もまた違和感を覚えていた。
「そうなのよね。引っかかるのよ、いろいろと」
いろいろと、拭えない感覚。
「じゃあ、犯人があれこれやってるのって怖がらせてるだけ? 怖がらせて喜んでるとか?」
うわあ悪趣味、と顔をしかめる湯田。犯罪なんて総じて悪趣味なものといえるのだが。それでもそう言いたい気持ちはわからなくはない。
そう。引っかかりの一つはそれだ。
怖がらせている。少しずつ、少しずつ、段階を踏んで。少しずつ、少しずつ、恐怖を煽って。怖がらせている。
「それで調べたいことが――」
葉山の申し出を、玲子は許可した。
計画的な悪意
――漂いくる無味無臭の黒い意思
執筆:12.05.10