悪辣ピエロ 11
千紗が保護されて数日が経過した。
ホテルでの軟禁状態が続いているものの、代わりといってはなんだが彼女を襲う危機はなく。携帯は鳴るが、犯人も部屋に本人がいないとわかっているのだろう、ルームポストに放り込まれていた写真も今は止まっていた。
そんなある日――
「ストーカーによる殺人事件発生!」
都内某所で新たに一人、女性の遺体が発見された。被害者は小野朋美、ブライダルコンサルタントをしている二十七歳。曽根崎啓子と同一の状態で見つかった。
白いワンピースを身にまとい、胸を赤く染めて地面に横たえられていた。シンプルにも鮮やかなコントラスト。
様々な点から鑑みて同一犯の仕業と断定。殺人事件は連続殺人事件となった。
「おいおい、どうなってんだ」
橋爪が操作会議で苛々と声を上げる。日下班、姫川班と揃って、空気はピリピリとしていた。
「連続ストーカー殺人だぁ!? どういうことなんだよ! 次に狙われてる人間は保護してるんじゃなかったのかァ?」
「はい。今回の小野朋美は彼女の次のターゲットだったかと思われます」
「はァ!? お嬢ちゃんよぉ、説明になってないんだよ!」
起立して述べる玲子に橋爪が長机を叩き吠える。そんなことを言われても、玲子たちにとっても新たな犠牲者は誤算だった。それもこんな早さで。
だがこれではっきりしたことがある。葉山が調べていたこと、姫川班が疑っていた――犯人は連続殺人を犯している、それが真実なのだと。そしてやはり千紗は狙われているのだと。
「犯人はきっと焦れてる」
会議後に戻った大部屋で玲子が呟く。
粘着質な橋爪の物言いには大声で思うままを喚き散らしてやりたかったが、なんとか乗り切った。
「犯人は本当は茅野千紗を殺したかった。でもまだ殺せなかった」
「俺たちが保護してますからね」
「だから次のターゲットを先に殺した。タイミングを考えるとターゲットのストック……って言い方悪いんだけど、」
「殺しを実行するまでに追い詰めてる被害者を複数持ってるみたいですね」
「そう。常に複数のストーカー行為を行っているのよ」
葉山が会議でも提示した事件資料を並べていく。現場写真が目を引く、殺害方法は多種多様だと見て取れた。犯人はどの事件もまだ捕まっていない。
これらの犯行を、繋ぐ確かな線は見つかっていない。それでも玲子の目には犯人は同じと見えたし、葉山を主として姫川班で裏付けとなる事件背景も概ね調べをつけた。
犯人はおよそ一年半ほど前から犯行を繰り返している。
被害者の周囲を洗い直してわかったのは、一人として漏れず見えない影に脅かされていたということ。
殺害方法が絞殺や刺殺、窒息などバラバラだったために同一犯とは見なされていなかった、それが前回と今回とで統一されたのはおそらく犯人にとって好ましい方法を模索でもしていたのだろう。
ストーカー的な一連の流れは当初から一貫しているが、徐々に手際がよくなっているのがわかる。
「となると、本格的に快楽殺人ということになりますね」
「ええ、このままじゃ被害は増え続けるわね」
「茅野さんのこともまだ諦めてませんよね、携帯への着信やメールも続いてますし」
預かったままの携帯。さすがに写真は底を尽きかけているのかメールの頻度は落ちたが、無言電話は止まない。
一度玲子が電話に出たから本人の手にないことなど犯人もわかっているだろうに。
「自分に自信でもあるんでしょ、警察が動いてようといつか絶対に殺してやる、って」
これだけ何度も犯行を繰り返し捕まることなく実行している。単なるバカとは思えない。
「それでも苛立ってはいるんでしょう」
これ見よがしに新たな犠牲者を出して。
捜査は今後として過去の事件も含めた方向で動く。単独の事件から前提が覆ったことでこれまで見えなかったものが見えてくるはずだ。
負けるはずがない。殺させるわけがない。
その足首にまで指は伸びている。掴んで引き摺るまであともう一息。地獄に蹴り落としてやる。
玲子はまっすぐ部下たちを見やった。力が入る。腹から声が出る。
「このヤマ、絶対取るわよ!」
地獄への誘い
――この手は確実にその首を狙って
執筆:12.05.14