悪辣ピエロ 13


容疑者不明のまま捜査は続いていた。犯人は被害者のそばにいる、そこから調べを進めていた姫川だったが最後の一歩というところで手詰まり状態。
怪しい影は見えていた。被害者たちの周辺に同一と思しき人物がいるようだということは浮かび上がってきていたのだ、特定までは至っていないのだが。

「茅野千紗が行方知れずだァ!?」

橋爪が怒鳴る。玲子は眉間に皺を刻み正面の男を睨む。こんなところで押し問答をしている暇はない。

――千紗が姿を消した。

玲子たち警察の保護の手をかいくぐって。危険と分かりきった外へと飛び出した。
ずっとホテルの部屋にいたはずだった。それが交替の隙を突いたようで、気付いた時にはそこはもぬけの殻。上擦った声の湯田から連絡が入って以降、目下捜索中である。

「現状は報告した通りです。我々のミスですのでお叱りは受けますが今は捜索に回りたいと思います」

失礼。そう一言を言い放ち背を向けた玲子を、がなり声が追いかけてくるが、そんなものは知ったことか。仕事をしているのだ、文句を聞くのが仕事なわけでは断じてない。

ヒールを鳴らせ、廊下を行く。部下たちには指示を出しているが、報告を待つだけの位置にいるわけにはいかない。

「姫川主任」
「すみません、あたしと組んでるばっかりに待たせちゃって」
「いえ」

所轄の刑事と並んで足早に歩く。警護対象に行方をくらまされたというのに落ち着いていると見えるのは年の功か刑事として長年培った経験によるものか。
庁舎を出れば見慣れきった姿がある。玲子は口元に弧を描いた。

「行くわよ、菊田」

菊田たちを伴い、千紗確保へと急ぐ。
警察の保護下から抜け出た彼女を間違いなく犯人は狙う。殺させはしない。絶対に。

犯人よりも先に彼女を。






届かない距離

――守るために。そして捕らえるために。





執筆:12.06.15