悪辣ピエロ 14
「ヒナ……!」
名前を呼ぶ千紗に呼応するように人影が揺れた。街灯は切れているのか暗い公園のただ中、呼吸を整える千紗の息遣いだけが聞こえている。
遠目に見える人影は小さい、屈んでいるのだろうか。明かりが欲しいところだ。顔は見えない。全体像もわからず、千紗は緊張しながら、警戒しながら、歩み寄る。
「ヒナ……? だよね?」
彼女に呼ばれて駆けつけたのだから、当然そこにいるのは彼女のはずで。聞いた事情から、千紗を待っていたはずで。
最近のこの状況の中で呼び出されるくらいなのだから、おそらくは非常事態が起きてでもいたのだろう。遅かったのだろうか、何かに。巻き込んでしまったのだろうか、恐れていたように。
震えそうになる足でそっと歩みを進める。ヒナ、と再び呼びかけながら近づいた。瞬間。
「そうだよ。茅野千紗ちゃん」
明瞭な声、思わず硬直する。揺れ立つ人影から視線を逸らすことも叶わず、千紗はただ立ち尽くし地面を踏み付けるような足音を聞いた。
菊田の運転で、玲子たちは明るい夜を走っていた。向かっているのは都内の公園だ。
千紗が彼らの手から離れてすでに二時間。警察の目の届かない場所に出た獲物、犯人にとっては都合のいい時間といえる。見逃すはずがない。
石倉をはじめ、葉山も湯田も動いている。大丈夫。大丈夫だと信じている。
それでも絶対というものはないのだ。気持ちは急く。早く早くと。
「主任、あと十分ほどです」
運転席からの声に頷いた玲子の携帯が、鳴った――。
千紗の身体が傾ぐ。急に視界が揺れて倒れ込んだところを、影が上を覆った。
「そこまでだ!」
突然閃いた光が闇の中を走る様を見た。
「殺人未遂の現行犯だな」
土を踏む乱れた足音、次いで石倉の下で呻き声が上がる。捻り上げられた腕から落ちたナイフを葉山が蹴り飛ばし、暴れる四肢を押さえつけて手錠がかけられた。
「怪我はない、千紗ちゃん?」
「……え、あ、うん」
あっという間の出来事で、呆然とした千紗は湯田に引き起こされて立ち上がる。ナイフを振りかざされた瞬間、腕を引き覆い被さってくれていたのだと今更に気づいた。
よろける足元をこらえ支えられながら、引き立てられる姿を見つめた。
「……芝村くん」
芝村弘也。懐中電灯の光に浮かび上がるのは、千紗の友人のはずの彼だった。
それは闇の中
――闇、そこに光射す。
執筆:12.06.21