悪辣ピエロ 15


ことの顛末はこうだ。

「あの、少しだけ外に出してもらえませんか……?」

始まりは遡ること二時間半ほど前のこと、千紗が兄に連絡を取った。両親には心配をかけたくないと何も話していないらしかったが、兄には無事を報告したいとホテル備え付けの電話から時折連絡を入れていた。

石倉の目の前で受話器を握っていた千紗は、一度それを下ろすと再び取り上げ、どこかへと番号を回し始めた。
訝しむ石倉を気にする素振りを見せながら、話し終えるとしばらく考え込んだ後に振り返って一言、

それは提案だった。

兄に言付けられていた伝言、それにより連絡を取った友人は言った。「笠木が今日のうちに会いたがっている。何か相談したいことがあるみたいで、茅野にしか話せないらしい」だから一人で件の公園に来てほしいと、さらに伝言を受けていた。

「その子は私がこういう状態って知らないんですけど、事件のこと知ってるヒナがそんなこと言ってるなんて……」

友人への疑いを抱いてはいない千紗ではあったが、さすがに一人でのこのこ出歩こうとするわけもない。
誰がどこから見ているかわからない状況が続いているのだ、当然だろう。

誰を、何を疑えばいいのか。

それでも事件の進展がないのを見て、千紗は一人で外に出て行きたいと言い出したのだ。もちろん距離を取りながらも警護はつけたままということなのだが、犯人を誘い出そうだなどと見た目に反し肝が据わっている。

石倉は警護を交代する予定だった湯田と話し合い、湯田は玲子に電話を入れた。玲子への説明がされている間、石倉は千紗から計画ともいうべき考えを聞き出していた。

かくして、千紗は一人きりとなった。――表向きは。

「絶対目を離すんじゃないわよ!」

玲子の声は湯田の携帯から漏れ聞こえるほどに強いものだった。ホシはうちが上げる。気持ちはみんな同じだ。

そうして、姫川班の千紗への尾行が始まった。あまり表立っていい捜査方法ともいえないためと、犯人を撹乱するために、所轄や上には内密で進めることとなった。報告は「見失った」だ。

「指定されたのは公園です。ここからだと距離があるので――」

直接の尾行は石倉が、湯田と葉山は別ルートで目的地を目指すこととなった。
千紗は電車を乗り継ぎ、石倉は人混みに紛れてしまいそうな後ろ姿を追う。

尾行を撒くような動きはなかったものの、友達と会う、にしてはなんとも長い距離を移動したため見失わないか神経を尖らせて、どこからか監視している可能性も考え極力距離をとって。

そうして、そこに着く頃には日も暮れ、辺りの暗さに警戒を強めなければならなくなったが、その分、身をひそめる側にとっては味方されるという点では、犯人と姫川班では同じといえた。

千紗が公園に踏み込む。石倉と、途中追いついた湯田と葉山も経路を変え、三方から追う。――そうして決着へと。





誘う声の行方

――たどり着くのは、夜闇





執筆:15.10.06