白石さんのオトモダチ


「白石先生ってお付き合いしてるひととかいらっしゃるん……ですか、ね?」

 おそるおそるといった様子で問いを放ったのは灰谷だった。スタッフステーションに集った面々の視線が集中する。
 藤川が椅子に座ったままキャスターを転がして灰谷に近づいた。

「灰谷ぃ、お前もしかしてー?」
「ちちち違います僕じゃなくてですね!?」

 慌てて首を振るものだから、目もとまで隠しそうな髪がふるふると、まるで動物が水を振り払う仕草のようになっている。

「じゃあ誰にでもなんだよー?」
「えっと、あの、他科のひとに声をかけられまして、聞いて欲しいってことで、」
「なんだ、そゆことかよ」

 誤解がとけたと安堵する灰谷だったが、今度は緋山が机に片手をつき見上げてくる。

「それどんなやつよ、自分で本人に聞きなさいっての。腰抜け。って言っときな」
「えええ」

 友達でもなんでもない他人から頼まれただけのはずが、間に挟まれてしまったことに遅まきながら気づいた灰谷は、怯えたように身を縮ませる。
 どかりと腰を下ろした緋山は足を組んでアゴに手をあてた。

「とりあえず部屋に男の気配はなかったけどね。周産期行ってた間のことははっきりとはわかんないからなー」
「俺の知る限りでもないけどな。こんなとこで働いてちゃそうそう色恋沙汰なんて縁遠いだろー。まあ? 俺とはるかは特別っていうか?」
「うざ」
「藤川先生」

 緋山と冴島の二人から冷たくあしらわれ、藤川は再びキャスターを転がしてもとの席位置まで戻っていく。
 灰谷は困った顔であっちへこっちへ視線が定まらない。

「そういやさぁ、白石、月に一回二回くらい飲みに行く相手はいるみたいだったけどな」

 自席でパソコン作業を再開した藤川の台詞に、しかし緋山はそれがどうしたと片眉を上げる。

「それあたしたちだから。男の気配とかじゃないし」
「は? あたしたち?」
「そう。あたしとか藍沢とか」
「私もたまに」
「はるかも!?」

 藤川の目が驚愕に見開かれる。マジで、と振り向かれた藍沢は一瞥を向けて作業を続ける。

「俺誘われてないんだけど!?」
「そりゃあ藤川だし。あんたと飲んでも別にねぇ」
「毎日顔を合わせてるのにわざわざ誘う必要性を感じなかったんでしょう」
「それははるかだってそうだろ!?」
「冴島と白石はトモダチだし?」
「え、俺はトモダチじゃねーの!? え、ひどくね!?」

 藤川の嘆きに同情の声はない。灰谷は矛先が向けられないようにかゆっくりと後退して、我関せずといった様子の名取の隣に腰を落ち着けた。
 そうこうするうちに、白石がラウンドから戻ってくる。

「あれ? なんか楽しそうだけど」
「ああ、藤川で遊んでただけ。んじゃあたしもちょっと行ってくるわ」

 緋山が立ち上がる。藍沢の後ろを通り抜けざまに、

「あの子、酔うとあんたの話が増えんのよねー」

 とつぶやいた声は、藍沢の耳にだけ届くのだった。