アラームに意識を引き上げられ、白石は仮眠から目覚めた。まだ眠りたがる身体を、顔を洗うことで覚醒へと促す。手早くメイクを整えて仮眠室を出て、さあ残っている事務仕事を片付けるかと机に向かおうとひたところで、気づいた。
「……藍沢先生?」
ソファで眠る同僚の姿。二人掛けのソファのその半分はマッサージシートが置かれているためか、逆側で静かに目を閉じている。
そういえば白石が仮眠室に入る前には、脳外から戻ってきていたばかりだったはずだ。彼は当直ではなかったのに帰りそびれたのか。
詳しいことは聞いていないが、日中も救命と脳外を往復しながら動き回っていた。すでにそれが日常と化しているのだから疲労の蓄積は否めないだろう。それなのに自分のことは後回しに、白石に休めと言うのだから困ったものだ。
小さく呼びかけても返事はない、藍沢の眠りはある程度の深さになっているのだろう。もともと白石が持参しいつの間にか共有のものとなったマカロンクッションを頭にした姿は、彫刻のような整った顔と相まってどことなく不思議な光景にも見えるものの、なんだか微笑ましくも思えた。
もう朝方にも近い。寝ているのなら起こさないでおこうかと、白石はブランケットでもかけようと思ったのだが。
クッションに乗っていたはずの頭がゆっくりと傾く。あ、倒れそう。思ったら身体が動いていたようで、白石はその隣へと身を滑り込ませていた。
明晰な頭脳を包容した頭が、白石の華奢な肩に乗る。
藍沢は目を覚ますことなく、白石の傍らで寝息をたてている。先ほど見た疲れを滲ませた寝顔。警戒心の強そうな彼が眠り続けていることに安堵した。
ちょっとかわいいかもと母性をくすぐられるなんてことは、きっと誰にも話せない。
「お疲れ様で……す……!?」
スタッフステーションにいた当直の名取が医局に戻ってきて動きを止めた。白石は慌てて人差し指を口もとにあてて示す。しかし、名取は頷くも藍沢からは起床を思わせる小さな声が漏れた。瞼が震え、ゆるりとそれが持ち上がる。
「まだ、」
ほとんど反射的に、白石は右手でその目もとを覆った。
「もうちょっと寝たらいいよ」
ささやくようにこぼれた声は、藍沢に届いただろうか。わからないが、藍沢の身体から再び力が抜けていく。規則正しい寝息が聞こえだしたことに、白石の唇はゆるんだ。
名取がゆっくりと瞬く。猛獣使いかよ。そんなつぶやきは、誰の耳にも届かずに。