不器用な眼差し

 最近新海には気になる人物がいる。白石恵。同病院に勤める救命医だ。

 脳外科に所属する新海と救命とは、コンサルがあれば関わることもあるし、単に院内で見かけたことも何度かあった。それでも藍沢が脳外にいた頃は、救命のコンサルは彼が担当していたのもあり、それほどの面識はなかったのだ。だからきれいな女医だとは思っていても、こんなふうに興味を持つことになるとは自分でも想像してはいなかった。

「白石先生、食事の日程いかがです? ドタキャンになっても気にしませんし、一度予定だけでも合わせませんか?」

 救命から移ってきた患者の様子を見にきたのだろう、脳外のスタッフステーションに顔を出した彼女に声をかければ、困ったようにはにかんだ微笑で返される。

「ドタキャンになってもなんてお言葉はうれしいんですけど、それじゃあこちらが申し訳ないですし」
「本当に構いませんよ。忙しいのも呼び出される可能性もお互い様ですから」

 この反応はどうにか断ろうとしているのか、本心から申し訳ないからという理由か、どちらなのだろう。表情からははっきりとは読み取れない。
 ただ、脈はないものと踏んでいる。
 それなのに繰り返し口説いているのには訳があった。彼女に興味を持つことになったきっかけでもある。


「天野奏の件はどうなってる」


 いつからいたのか、相変わらずの鉄面皮に不機嫌さをにじませた藍沢が問う。

「ああ、説得手伝ってくれるようお前に連絡しようと思ってたんだ」

 いつからいたか、それは最初からだ。その姿が見えたからこそ新海は白石に声をかけた。
 無愛想に頷く藍沢に、彼女は会話を畳めると安堵の息を吐いている。残念、今回はこの辺にしておこう。

「もういつ急変してもおかしくないんだ。そろそろ同意してもらわないと」
「……そうだな」

 言葉少なに頷く藍沢は、離れていく白石の背中を一瞥して新海に向き直る。
 患者のことを気にかけて声をかけてきたのも本心だろう。だが新海はそれだけではないことに気づいている。

 いつも冷静で淡々と仕事をこなす藍沢は、良く言えばクール、悪く言ってしまえば傍若無人……は言い過ぎだが、さほど他者とコミュニケーションを取らず我が道を行く人間だ。それなのに白石恵という女性が関われば揺れる。それが意外で、愉快でたまらない。

 医師としては凄腕のくせに、人間関係ではどうにも不器用で仕方が無い。わかりにくくてわかりやすい脳外科医としてのライバルを、新海は肩を叩いて患者の病室へと促した。