医局のソファーでカルテを確認していると、目の前にカップが差し出されて目を上げる。予想通りの笑顔があって、ありがたく受け取ることにした。
「藍沢先生ちゃんと休んでる?」
コーヒーの苦味と酸味が心地好く喉に流れ込む。
「お前には言われたくないんだが」
「私は今から休憩するよ?」
言いながら白石はソファーに、隣に腰を下ろす。
ちょうどみんな出払っている時間で、スペースならどこにだってあるというのに。
「休憩するなら仮眠室にでも行ってきたらどうだ?」
「昨日は帰れたし、今日も思ったほど忙しくないから平気」
「忙しくないからこそ今のうちに休んでおけばいい」
「んー、まあタイミング見て行くよ」
そんなことを言いながら、どうせなかなか休みはしないんだろう。いざとなれば強制的にでも追いやらなければならない。緋山と自分が戻った今、それも役割のひとつだと考えている。
何事もひたむきな姿にはいつも感心するが、自分を蔑ろにするところは……いや、そんなつもりもないのかもしれないがその点には昔から呆れてしまうのだ。
――不意に、肩に感じる重み。
目をやれば間近に黒髪の頭頂部。さらりと流れた髪が藍沢の頬をくすぐる。
「……白石?」
声をかけるも聞こえるのは規則正しい呼吸音。
だから仮眠しろって言ったのに。
ため息が落ちるが、移動するよう起こせば寝なくなってしまうのだろうし、毛布か上着でもかけてやりたいが動けば起こしてしまうのだろう。
仕方ないとばかりに藍沢はそのまま作業を続けることにした。
珍しくホットラインも鳴らなければPHSも鳴らず、ざわめきも遠い。束の間の平穏といったところか。パソコンのモーター音、微かな電子音、時計の針の音さえ聞こえそうな中、ささやかに触れるぬくもりがやさしくて、……誘われるようにそっと目を閉じた。
「なあ緋山ー、なんか珍しいことになってるぞ」
「放っとけばぁ? 目が覚めたら面白いことになりそうだしー?」
寄り添う二人の目が覚めるまで、あともう少し。