愛と呼ぶのなら、

 鴎外が本部に佐登を連れて戻ってくると、連絡を受けていた構成員たちにはすぐに通達された。同時に、最上階は一切の立入禁止を鴎外は告げて、護衛すら遠ざけた。それを聞いた中原は物申したいこともたくさんあったが、状況が状況だったために何も言わずに最上階を佐登と鴎外以外はすべて撤退させ、無人とした。
 寝室の扉を開けた鴎外は自分の外套でくるんだ佐登を寝台へそっと座らせた。
「具合悪いところは?」
「……大丈夫です、」
 鴎外に頬を撫でられて、佐登は目を細めた。なんだかとてもくすぐったくて、とても心地良い。薄い病院着では少し冷えていたのか空調がしっかりとしている寝室はとてもあたたかくて、すごくホッとした。そして、同時にここに来ると思い出す。鴎外がここで眠っていた時、佐登は――――。
「暮、」と自分を呼ぶ声が聞こえる。はっと顔を上げれば、鴎外が悲しげに目を細め、そして静かに首を振っていた。考えるな、といいたいのか、それとも。鴎外にそっと肩を掴まれる。固く目をつむると、鴎外の唇が佐登の唇に押し当てられる。少しカサついているような、でも柔らかな感触がする。ちうちう、と鴎外に唇を食まれて、佐登は顔に一気に熱が集まっていくのがわかる。暑い。さっきまで寒いくらいだったのに。息ができなくて苦しくて、唇を少しだけ開けると、するりと、鴎外の舌が入ってくる。
「ふ……っ、んんっ、」
 体がしびれるような、そんな。口の中に入ってきた舌はあっという間に佐登の舌を絡め取ると、強く吸い付く。ぬるぬると動く舌の感覚は気持ちいい。こんな口付けは知らない。頭をいつの間にか固定されていて、鴎外の思うままに口付けられる。息も、唾液もすべて混じり合うようなそんな、口付け。
「んっ、んん、んぅ、ふ……っ、んぁ」
 口付けしたまま、寝台へ倒れ込む。押さえつけられるような口付けに変わっていくと、流石に苦しい。体も鴎外が覆いかぶさってきて抑え込まれて、逃げ場もなく、抵抗も許されない。ただただ、思考も、何もかも溶かしてしまうような。苦しくて、苦しくて、もう息もできなくて。――――漸く、佐登は鴎外の胸を叩いた。すると、鴎外は存外すんなりと離れていく。二人の唇を銀糸がつなぐのが見える。
「……んっ、鴎外、さ……」
 ちう、と鴎外が唇を吸う。また、あんな口付けをするのかと身構えたが今度はそれだけ。ただ、佐登の体に覆いかぶさるようにしたまま、いくら細く見えても男性の体だ。佐登には少しだけ重くて。でもすごく心地が良い。彼を覆ってる背広がなければ、彼の体温を感じることができるだろうか。もっと触れたい。もっと。もっと、この人の近くに行きたい。――――そう思ったら、涙がこぼれ落ちた。
「……暮?」
 鴎外が目を見開いて、動きを止めた。ぽろぽろと、こぼれ落ちる涙を見てひどく狼狽した顔をして、佐登から身を起こす。
「ごめん、突然。嫌だったよね、怖かったね」
 涙を拭う鴎外の手。その手付きがあまりにも優しくて、佐登は小さく微笑んだ。
「違うんです、違うの」
「でも……」鴎外が言いたいことはわかる。佐登は怖い思いをした。
 鴎外が気持ちを自覚したあの日、佐登は陵辱された。情報を聞き出すわけでもなく、ただ、壊れてもいい玩具のような扱い。あれは怖かったし、苦しかった。でも、鴎外から今、もたらされるものは違う。優しくて、暖かくて、愛おしくて。佐登は鴎外に手を伸ばす。
「もっと、鴎外さんに触れたいって思うのは……わがままですか?」
 ひたりと、佐登の手が鴎外の頬に触れた。
 嗚呼、この手だ。この手が自分に差し伸べられたから、森鴎外は人間でいることが出来た。鴎外は佐登の願いに応じるように手袋を外した。そして、床に適当に放る。素手で佐登の手を握る。少し冷えていたけれど、それでも温かい。眠っていた佐登の手は生きていないかのように冷たくて、少しでも自分の熱を分け与えたくて必死だった。
「もっと?」
「……もっと、もっと、触りたいです」
 わがままでごめんなさい、と謝る佐登に首を振った。こんなのわがままのうちに入ろうか。もっと言ってくれていい。もっと色々叶えてあげたい。
「私も、もっと暮に触れたい」
 ――――いい?
 鴎外が小さく聞くと、薄っすらと頬を赤らめた佐登がしばし視線をさまよわせた後に、はい、と頷いた。


 鴎外がネクタイを外すして、襯衣のボタンを開ける。痛々しい傷の痕が見えると、佐登が目を見開いた。福沢社長との決闘で怪我を負ったとは聞いていたが、嗚呼、見るとあまりにも痛々しい。泣きそうな顔をして手を伸ばすと、鴎外が柔らかな瞳で佐登を見る。そっと佐登の手を掴んで傷をなぞらせた。もう痛みはない。
「大丈夫だよ、もう痛くないよ」
「でも……っ、」
 守れなかったのはふたりとも同じだ。佐登は鴎外を守りきれず怪我を負わせ、鴎外は佐登を守りきれず意識不明にさせた。互いが互いに咎を感じている。傷をなぞっていた佐登がゆるゆると泣き出す。その藍色の瞳から涙が溢れることばかり。本当はもっと笑っていてほしいのに。涙をそっと唇で拭う。
「暮が守ってくれたんだよ、」
 だから泣かないで。
「私、が……?」
「うん。暮が守ってくれた」
 あの時、不意に思い浮かんだのは佐登だった。そのために生き残ろうと思ったわけではなかったが、佐登の顔を思い浮かべた時に「帰らなくては」と確かに思ったのも事実だった。彼女は帰ってくる場所だ。傷は深いがもう痛みはない。佐登が泣いて苦しむほどのものではない。これは佐登の制止を振り切った自分の責任だ。もう一度唇が触れ合うと、佐登は最後の涙を、ぽろりとこぼして柔らかく微笑んでくれた。
 佐登の病院着の紐に手をかける。本当は無理などさせてはいけないのは十分に鴎外は判っているが、今は少しでも長く、少しでも深く佐登と触れ合っていたい。体も、心も、今はそれを望んでいる。互いの離れていた時間を埋めたくて仕方がない。――――こんなにも、誰かがほしいだなんて、初めてだった。少し性急だったか、佐登の体が大きく震えた。病院着の前を開かれ、鴎外の手が自分の肌をなぞったことに緊張しているようだった。
「……怖い?」
 心臓のあたりにそっと触れる。とくん、と小さく手をたたく、佐登が生きている証。あのときは上手く感じ取れなかったが今ならしっかりと分かる。嗚呼、彼女は今、生きてここにいる。触れることを許してくれている。佐登が首を振る。
「ちょっと、恥ずかしいだけ、です」
 明かり、消してくれないんですか、と顔をそむけて佐登が言う。
「消したほうがいい?」
「……普通は消すんじゃないですか?」
「だって、暮が見えづらくなっちゃうから、できれば消したくないなぁ、私」
 少し子供のように鴎外が笑った。体を寄せて、佐登の首筋に唇を押し当てる。ちゅう、と音をたてるそれが脳に直接響いてくるような感覚がして、佐登は固く目を閉じる。明かりを消さないと、全て丸見えだから恥ずかしいのだが。見られるのが恥ずかしいのに、鴎外は見えづらくなるから灯を消すのは嫌だという。

「今は、全部で暮を感じていたい。見て、触れて、声を聞いて……漸く、暮がここにいるって、安心できそうなんだ」

 鴎外の手が壊れ物でも触れるかのように優しくて、佐登の体をなぞる。くすぐったいような、心地いいような。首に触れている唇は位置や強さを変えて、首や鎖骨に吸い付いている。時折、吸い付いた痕を舐められると身が震えた。はぁ、と吐息をこぼすと、鴎外が少しだけ嬉しそうに微笑むので、佐登はなんだか、安心した。
「ふっ……は、ぁ……っ、んぅっ………あっ、あ、ああっ、」
 佐登の胸に鴎外の手がかかる。やわやわとして膨らみをしばし指で押すように堪能し、そっと離す。甘い声が上がると、胸がきゅうと締まるような気がした。嗚呼、愛おしい。鴎外は幾重にも佐登の肌に口付けながら、そっと胸まで降りてくるとゆるく立ち上がってきている胸の頂きを口に含んだ。
「ひゃっ、あ、やぁっ、」
 唇で食みながら、ちゅうちゅうと吸い上げると、一段甲高い声が佐登から上がる。いやいや、と首を横に振るのは与えられる快楽に慣れていないからだ。そう云えば、鴎外が佐登と体を重ねるのはこれが二度目だった。――――一度目は合意だったとはいい難く、佐登のことを考えてやる余裕なんてなかった。今考えれば、自分も佐登を陵辱した人間たちと何が違うのだろう。今にして思えば、苦痛だっただろう。
「あっ、や……ふっ、んんんっ、はぁ、あっ、あっあ……っ!」
 いや、と時折口にするが、声は甘ったるく、手は鴎外の髪に差し入れられ抑えている。本当に嫌なわけではなさそうで鴎外は目を細めた。柔らかくて甘いその胸から一度唇を離すと、ぷくりと固く芯を持って立ち上がっている。鴎外は唾液で濡れているそれを指で摘んでこすり合わせた。びく、と佐登の背中が一瞬だけ浮く。
「気持ちいい? 痛くない?」
「あっ、ひぁ……っ、い、たくは、っ、あああっ、」
「ん、少し力を抜いて。大丈夫、怖くないよ」
「あー……あっ、んっ、」
 突然強い快楽を与えられるとまだ怖いようだ、と鴎外は佐登の頬に口付けながら思う。ゆっくりと、ゆっくりと佐登の体を拓いていこう。焦らなくても、もう、彼女は自分のものだから。
「ん……っ、あ、おうがい、さん」
「ん?」
「口付け、して、ください……っ」
「もちろん」
 暮が望むのなら、いくらだって。
「んっ、んぅ……ふっ、ん」
 拙くても必死に鴎外に舌を絡めようとしてくれる佐登が愛おしい。自分だけ気持ちよくなる訳にはいかない、とか考えているのだろうか。いいのに、と鴎外は目の前で固く目をつむっている佐登を眺める。佐登の手がゆるゆると鴎外の襯衣の中へ入る。それに驚いて、鴎外は唇を離してしまった。
「ふぁ……っ、」
「……暮、」
「……だ、って、鴎外さん、脱いで、ない、から……」
 いけないことをしたのか、と不安に瞳を泳がせる佐登を見て、鴎外は苦笑した。確かにこれはマナー違反だったな、と思う。共寝をする女性に対して不誠実だった、と反省すると佐登の頬に口付ける。
「脱ぐの手伝ってくれる?」
「……は、い」
 佐登の手を引いて、寝台の上に起き上がらせる。佐登の手が鴎外の襯衣に入り、肩口をそっと浮かせると鴎外は浮かせた襯衣をストン、と落とす。明かりが消えていないせいで、傷口が見えるから佐登が少し不安そうな顔をする。痛くない、と鴎外は言うが、とそっと触れると鴎外が苦笑した。きっとこの傷が見えなくなるまで、佐登は不安そうな顔をするに違いない。そっと佐登が鴎外に寄ってくる。ちう、と傷口に佐登が吸い付く。
「……暮、」鴎外が目元を抑えて、上を見た。
「……はい?」佐登は意味がわからず首をかしげる。
「……否、うん。なんでもない、なんでもないよ」
 少し冷静になろうと、素数を頭の中で数えながら、鴎外はそっと佐登を寝台へ横たわらせる。一糸も纏わぬ佐登の白い肌。青白くはなく、健康的な淡桃の肌だ。再び胸の飾りを口に含み、もう片方を指でこね回しながら、佐登の反応を伺う。もう嫌がっている様子もなく、鴎外に与えられる快楽を必死に享受しようとしている。開いている手で、鴎外は脇腹をなぞり、腹をなぞる。するすると手を下げていき、閉じている足の間に入れると、優しくゆったりと撫でてやり足を開かせた。やわい内ももを堪能するように、しばし手を滑らせた後に、すでに少し濡れている秘部へ指を滑らせた。
「ひっ、あ、い、いや……っ、」
「大丈夫。急に怖いことはしないから、ね。痛くないようにしてあげたいから、」
 指を添わせるようにして動かす。不安げに瞳が揺らいだのは、矢張り思い出すからか。入り口付近を指で何度も往復し、時折花芯を指の腹でなぞってやると、くちゅ、と音が鳴るほどになってくる。最初は怖がっていたが、鴎外が無理にしないので、今はもどかしい快楽に唇を手で抑えて、声を上げないようにとこらえているのが見える。嗚呼、声が聞きたいと言ったのになぁ、とは思いつつ無理強いはしないと約束はしているので、しばらくは黙っていようと鴎外は決めて、自身の愛液でたっぷりと濡れた花芯を親指で押しつぶす。
「ひっ、ああ、あっ、あああっ!!」
 ぐりぐり、と強弱をつけてそこを押しつぶすと、佐登の背が仰け反った。あ、や、やめて、と喘ぎの中にそんな声が聞こえてくる。本気で嫌そうなら、とも思うがまだ快楽に溺れた声をしているから、と鴎外は止めなかった。
「あっ、ひぁっ、あ、や、やだっ、いや……っ、あ、んっ、い、く、いく……っ、」
「気持ちが良い証拠なのだから、気にしなくていい。いきなさい」
「あっ、あっあ、あん、あああっ!!」
 ひときわ強く花芯を押しつぶされて、佐登は達した。びくんびくんと体を震わせる佐登はしばらく呆然としていたが、鴎外は気を遣ったことで、先程よりも口を開いている膣口に指をあてがう。ぐちゅ、と愛液の音が聞こえてくると、佐登はあまりにも恥ずかしくて目をそらした。まるで自分の体が自分のものじゃなくなってしまったかのような気分。初めて鴎外に抱かれたときは、こんなこと思っている余裕なんて一つもなかった。
 鴎外の指が佐登の中へと押し込まれる。長くしなやかな指を一本飲み込んだそこは溶けるかと、錯覚するくらい熱かった。襞が幾重にも、絡みついてきてぎゅうぎゅうと鴎外の指を締め上げる。嗚呼、このままでは苦しかろう。実際佐登は先程まで快楽に溺れていた顔をしていたのに、今は眉をきゅうと寄せて苦しそうだ。
「暮、少し力を抜ける?」
「……む、りぃ……っ、」
 膣への突然の異物に体が反射的に力を入れているのか、と鴎外は考える。痛い思いをさせたいわけではないから、ゆっくりと鴎外は指を動かしていく。善いところを探り当てられるように、と指の腹で襞をなぞり、親指は花芯を弄んだ。
「あっ、んぁ、ああ、ひっ、あっ……あっ、ああっ、ひぁっ!!」
 鴎外の指の腹が佐登の善いところを捕らえた。嗚呼、ここか、と鴎外は思うとそこを執拗に刺激する。
「やっ、やだ、やぁ……っ、」
「痛い? 痛いからいや?」
「ち、ちがっ、きも、ち、いいの、こわっ、こわい……っ」
 ぐずぐずと子供のようにぐずる佐登をあやすように口付けを落とす。一度、指をずるり、と抜くと佐登の花唇ははくり、と動いた。鴎外は佐登の太もも裏を掴んで、両足を持ち上げる。しっかりと秘部が見えるように肩に足をかけさせると顔を近づけた。
「え、っ、あ、だ、だめ、鴎外さっ、あああっ」
 鴎外の舌が中へと入ってくる。はくりと口を開けている中へ舌を押し込んで、動かす。先程の指とは全く違う、熱を持ち、ぬめるそれに佐登は足をばたつかせようとするが、鴎外にしっかりと抑えられて上手く動かせない。下肢はあまいしびれを感じて、自分の意志では動かせず、佐登はただ鴎外にされるがままだ。
「あっ、ああっ、ま、待ってっ、待って……ひっ、ひぐっ、」
 自然と腰が浮き上がってきたので、鴎外は手を差し入れて落ちていかないように固定する。顔を挟む太もももひくひくと痙攣し、佐登の体がしっかりと快楽を受け取っていることを示していた。ひときわ強く吸い付いてやれば、佐登の一回目の絶頂は早かった。甲高い声をひときわ上げて、ぐったりと佐登から力が抜けた。鴎外の唇が佐登の愛液で濡れているのを、呆然とする視界の端で捉えて佐登は困惑した。
「ひあ、っ、あ、ま、って……まって、おね、がい、いまっ、」
 指を中へと入れられ、舌足らずな言葉で必死に訴えかけてくるが、鴎外は穏やかに微笑んだ。
「痛くしないために、ね、お願い」
 ぐずる佐登をなだめるように鴎外がゆったりと頭を撫でてやる。ぎゅうぎゅうと抱きついてくるので、そのままでいいかとも思う。柔らかな佐登の肌を感じながら、指をゆるゆると動かしてやる。先程に比べてずっと動かしやすいがまだまだ鴎外を受け入れるにはきついだろう。無理やり暴くのではなく、丁寧に拓いていくと決めたのだからこれくらい優しくて当然だ。
 奥へ奥へと受け入れてくれるようになってくると鴎外は指を一本増やした。
「んぅ……っ、」
「痛い?」
「……ち、が……くるし……っ、」
「……そうだね。慣れないとまだ、苦しいかな」
 快楽を拾っていないわけではなさそうだが、矢張り指が入ると眉をひそめる。今日はこのまま終わったほうがいいかもしれないな、と鴎外は指を動かしながら考える。再度、佐登が達することが出来たらそれで終わりにすればいい。抑も、病み上がりの状態で無体をするわけには行かない。引きつった呼吸を繰り返している佐登に優しく口付けて、先程佐登の反応が良かった場所を指の腹でこすった。
「ひっ、あっ、あっ、ああっ、んぅ……っ!」
 びく、と体がしなり、中がきゅうきゅうと収縮を繰り返して、痙攣した。
 指を引き抜くと、それだけで一瞬震えたが、鴎外は佐登の様子を見て、矢張りここまでにしようと決めた。はぁ、はぁ、と息をつきながら、呆然としている佐登の顔の涙を拭ってやる。
「……?」
「今日はここまでにしよう。体もまだ万全じゃないのに、ごめんね」
「……あ、」
 体を拭くものを用意しなければと鴎外が体を佐登に背を向けたところで、佐登が思い切り鴎外に抱きついてきた。衝撃に一瞬体勢を崩しかけたが、なんとか持ちこたえて鴎外は恐る恐る佐登を見た。
「暮?」
「……つづ、けてください。続けて……っ」
 ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるその手は震えていたし、声も泣いて掠れていた。
「でも、苦しいだろう? 別に無理を今しなくても、ちゃんと体が治ってから、」
「やだ……っ、やだ、今じゃなきゃ、やだ……っ、」
「……痛いかもしれないし、体への負荷も大きいんだよ。否、ここまでしておいて何いってんだと言われたらそこまでなのだけれど」
「それ、でもいいから……っ、」
 良くないよ、と鴎外は口にしかけて、押し黙った。これ以上佐登にいわせるのは恥をかかせるだけだ。手をほどいて、振り返ると佐登が泣いている。嗚呼、また泣かせてしまった。ちゅう、と色々なところへ口付けを落としながら佐登をゆっくりと寝台へと戻していく。
「……痛かったらごめんね」
 痛い思いも、悲しい思いも二度とさせたくない。自分の頬をなでてくれるその手から佐登はひしひしとそれを感じ取っている。だから、今、鴎外に抱かれたい。もっと触れてほしい。もっと深くまでひとつになりたい。そう思うのははしたないことだろうか。鴎外の手が温かい。熱を持って自分の触れてくれることがとても愛おしい。愛おしい人と繋がりたい、と思うのは普通のことだと信じたい。

 鴎外の屹立が擦り付けられた時、佐登はびくりと体を震わせた。思ったよりも大きいのだな、と思うと本当に指であれほど苦しかったのに入るのだろうか、と不安に感じてしまった。
「やっぱりやめる?」
 鴎外が困ったように笑う。それほどそそり立っているのなら、鴎外だって辛いはずなのに。佐登はふるふると首を振った。
「鴎外さん、だから……」
「……ありがとう、」
 君でよかった、と鴎外が言ってくれることが嬉しかった。
 まさしく身を貫かれるというのはこういう事を言うのだな、と佐登は鴎外を受け入れながら思う。初めてはすでに他の男に奪われていて、あのときはもう何がなんだかわからなかった。ただひたすらに痛くて、気持ち悪くて、もうすでに記憶から消し去っている。思い出すのすらおぞましい経験だった。その後、鴎外が抱いてくれたのにそれもあまり覚えていない。だから、実質、佐登にとってははじめての経験にも等しい。比べ物にならない太さと熱をもったそれが入り口から押し入ってくる時、矢張り痛かったような気がする。痛みなのか、快楽なのか、よくわからず、ただ佐登は弓なりに体をしならせ、嬌声を上げた。
「あっ、ああ……っ、ひぐっ、あ……っ、うっ、」
「は……っ、」
 鴎外が眉を顰めている。矢張り、鴎外も辛いのだろうか。先程から体がまったく言うことを聞かなくて、力を抜くこともろくに出来ない。ただ、一つだけ言えることは、嬉しいことだけ。鴎外に身を貫かれることが嬉しい。ゆっくりとゆっくりと中を押し進んでくる屹立を受け入れながら、佐登はゆっくりと鴎外に手を伸ばした。
「……? どうしたの、」
 鴎外がきょとん、としながら佐登を見る。佐登の手は鴎外の頬をするりと通り抜けていって、はらはらと流れていた黒髪をそっと耳にかけてやっていた。
「んっ……鴎外、さんの顔が見づらくて、」
「……暮、あまり煽らないで、」
 ――――今は。
 一番奥まで、腰を進められて、佐登は喉をそらした。その喉に何度も口付けながら鴎外はしばらく動かないまま佐登を見ていた。達していて、まだ動くことは出来ず。膣はぎゅうぎゅうと屹立を締め付けて、その形をしっかりと覚え込もうとしている。
「暮、そろそろ動いていい?」
「……ん……あ、……は、いぃ……っ、」
 少し浅く引き、再び引いた分だけ戻しをゆっくりと始める。少しずつ少しずつ律動の範囲が大きくなっていき、佐登が苦しそうな表情から快楽を拾っている表情に変わっていくのを鴎外は見ながら腰を動かした。無駄に色ごとの経験が高くてよかった、と少しだけ自分の経験に感謝した。大分、佐登の中が慣れてくると、少し大きく引き、その分だけ打ち付ける、と繰り返した。佐登が甘い嬌声をあられもなく上げ、背を反らし、喉を震わせる。最奥を貫いたときには、先端で子宮口を押しつぶすかのように刺激した。まだそこでは快楽を拾えないようだが、鴎外が自分のどこまで入っているのかわかったのか、目を見開いた後、ゆるゆると細めて、自分の手で、下腹部を撫でた。その幸福そうな顔を鴎外はきっと忘れられないだろう。
「ひっ、あ、ああっ、鴎外、さっ、うっ、はぁ、ああ、あんっ、」
「……はぁ……っ、暮、暮……っ!」
 少しずつ激しさを増していく律動と、乾いた肌を叩く音。伸ばされた佐登の手を握り込んで寝台に押さえつけるようにして鴎外は佐登を見下ろした。涙で濡れた藍色の瞳が愛おしいと言わんばかりに鴎外を見つめて、微笑んだ。こんな、しびれるような甘さを持った性行為など、鴎外も知らない。愛する人と肌を合わせることの何たる心地よさ。打算と利益を得るために体を使ってきただけだったので、鴎外にとってははじめての経験だった。心地が良い。気持ちがいい。もっと、もっと、と佐登を求めてしまいそうになるのが少しだけ怖かった。
「暮……っ!」
「あ、ああっ、ああああっ!!」
 白い光が明滅するかのような強い快楽。鴎外は佐登に覆いかぶさったまま、ゆるゆると腰を揺らし、最奥で吐精した。すべて吐き出し終わると、ぶるり、と体を震わせて、佐登を見た。たまらなく、愛おしいと思った。濃灰色のくせ毛を優しく払ってやり、佐登と口づけを交わした。
「……鴎外、さん」
「どうしたの?」
「も、一回……」
 鴎外は一瞬、きょとんとした顔をして、然し、ゆるゆると笑った後に柔らかく口付けた。
「勿論。君が望むのなら、」



* * *



「水、飲めそうかい?」
「……いらない、です」
 鴎外に身を清められた佐登はぐったりとした様子で寝台に身を投げだしている。少し無理をさせすぎたかな、と鴎外は反省しつつ、優しく頭を撫でてやる。自分で水差しからコップへ移した水をぐい、と口へ入れると佐登の顎を掴んで口移しで飲ませた。少しぬるくなった水が口に入って来て、佐登はさぞや驚いたようだったが、鴎外に鼻を摘まれたせいで飲み込むしかなかった。
「んぐっ、ん……っ、」
 飲みきれなかった水が口の端から溢れるので、手で拭っている。その様子を眺めて、まあ、別のことを連想したわけだが佐登には気づかれぬうちに笑顔へと表情を戻す。
「窒息したらどうするんですか……!」
「その時は私がちゃんと蘇生してあげる。大丈夫だよ、」
「そういう問題じゃなくて……っ、」
 腰に思い切り違和感があるのだろう、佐登は起き上がって文句を言おうとしていた体を力尽きるようにして寝台へと沈ませた。くすくすと笑いながらそれを眺め、鴎外も裸の侭寝台へと入っていく。そして、佐登の体を優しく抱きしめた。
「おやすみ、暮」
 優しく、甘い声で言う。