優しく溶かしてほしい

 ひときわ高い声が響いた後、枕を抱えてうつ伏せていた佐登の白い背中が数度大きく震えるのを鴎外は優しく眺めた後にそっと体を寄せて髪の間から覗くうなじにそっと口付けた。
「あ、」と短く甘い声を上げた佐登の頬を優しく撫でると、鴎外はその中から吐精を終えた自身をそっと引き抜く。それすら僅かな刺激となるのか、ぎゅう、と枕を抱きしめている佐登を優しくなでてやり、ごろりと仰向けにさせた。お疲れ様、と言いながら枕を取り去り、手を握りあうと数度触れ合うだけの口付けを交わす。口付けを終えると、鴎外もごろりと、佐登の隣に寝転がった。裸のまま、佐登へ手を伸ばすと、少し恥ずかしそうに頬を薄く染めた佐登が静かに鴎外の腕の中へと収まる。
「辛いところはない?」
「だ、大丈夫です……」
 素肌で触れ合うのがこれほど愛おしい、心地よいものだとは思わなかった。もっと触れていたい、とは思うが佐登の体をいつまでもこのまま放置しておくのは忍びない。汗が冷えて風邪を引いても困る。鴎外は少し待っててね、というと浴室までガウンを一枚羽織って素足で向かった。お湯を入れた桶とタオルを数枚用意すると鴎外は少し急ぎ足で寝室に戻る。寝室のシーツの中では、佐登が疲れたせいか少しまぶたを落としてうとうととまどろんでいた。
「こら、そのままじゃ風邪を引いちゃうよ」
「……ごめんな、さい」
 半分ほど眠りに落ちそうになっている佐登のためにタオルを絞る。そっと汗をかいていた体にタオルを滑らせると佐登が僅かに肩を震わせた。熱いか、と聞いても首をふるので単純に驚いたのと、恥ずかしいのだろう。こうして情事後は鴎外にすべて後始末を任せる、と約束事がなければきっともう少し抵抗していたに違いない。汗のしずく一粒ですら残さないように丁寧に丁寧に拭き取って行けば、佐登があまりにも恥ずかしくなったのか、ついに顔をそらした。
「あ、あの……鴎外、さん。そ、そんなにしなくても。明日、ちゃんとお風呂入りますし、」
「うん。わかってるよ」
「〜っ、もう……っ」
「もう一寸ね。足の先までやって、襯衣着せてあげたら終わるからね」
 子供をあやすような言い方に若干不満もあるが、佐登はぐと押し黙った。反論すればするほどからかいのための無駄な行動が増えて、恥ずかしい思いをさせられるのは自分なのだ。ここは静かに、黙って、鴎外の好きなようにやらせてあげるのがいい。
 佐登の体の拭き上げが終わった鴎外がタオルを桶の中に戻すと、予め用意しておいた襯衣を佐登に着せた。何から何までされるがままになっていた佐登はすべてが終わったことに安堵して、静かにため息をつく。襯衣の袖が若干余っているし、裾も僅かに長いので、着せられたのが鴎外の襯衣だと気づく。余った袖口を鼻先に近づけると、鴎外が普段愛用しているコロンの香りがして、たまらなく心臓が高鳴った。
「こら、煽らない。私はおじさんだから、そんな体力ないのだからね」
「あ、あ、煽ってませんっ!」
「はいはい。ほら、横になろう? 疲れただろう?」
 鴎外は再びごろりとシーツの上に横になると腕を広げる。むぅ、と納得がいかない表情を浮かべていた佐登はしばらくその場から動かなかったが鴎外がにこにこと笑って腕が枕の位置になるように動かすので、佐登はゆるゆると頬を染めていき、そして鴎外の腕の上に頭をおいて、背中を向けた。
「おや、こっちを向いてはくれないの?」
「向いてあげません。ただ、手をぎゅってしたいので、手を貸してください」
「ふふ。どうぞ」
 佐登の腹の上に鴎外の手が置かれ、その手を佐登が愛おしそうに指を絡めて、握りしめた。
「暮は温かいねぇ」
「そう、ですか? ……嗚呼、でも、良く父たちにも子供体温って言われますよ」
「暮がポカポカしてるときは眠たいときだね。もう眠たい?」
 鴎外がくすくすと笑いながら、佐登の頭に顔を寄せた。鼻先をくすぐる、佐登の髪があまりにもふわふわとしていて心地が良い。
「眠くないです、」
「本当に?」
「……少しだけ、眠いですけど」
 ほら、やっぱりと言って鴎外がくすくすと笑えば、佐登はくすぐったそうに身を捩った。鴎外は佐登の項に唇を寄せると、ちゅうと吸い付いた。すでに赤い痕のついているそこを更に濃くするようにゆっくりと。吸い付かれた拍子に佐登の手に強く力が入った。
「や、鴎外さん、明日早いんですから……」
「そうだね」
 ふう、と耳に吐息をかけられる。佐登が握っていたはずの手は、いつの間にか鴎外になぞるように握り込まれており、指をなぞり、間にゆったりと入り込んでくる鴎外の細いしなやかな指に先程までの熱を思い出されるような気がして佐登は固く目をつむった。
 鴎外の手が佐登の手を離して、佐登の下腹部を撫でる。襯衣一枚の上からそっと狙った場所に力をわずかに込めるようにして撫でると、佐登の口から、くぐもった吐息がこぼれ落ちる。慌てて両手で口をふさぐと、頭が乗っていた鴎外の腕が動いて佐登の胸に触れた。
「あ……っ、す、するんですか……?」
「……またしたくなっちゃった。だめ?」
「断れなくしてる、くせ……にっ、」
 とっくに襯衣のボタンはすべて外されている。顔を振り向かせると、鴎外の唇が佐登の口を塞いだ。ちゅう、と舌を吸われると、撫でられている下腹部の奥が、ひどくうずいて仕方がない。もっと、もっとと求めてしまうのははしたないことだと思っているのに止められない。
「……んっ、」
「ありがとう、暮」
 ――――愛してるよ、と耳に直接囁かれる声に、佐登は身を大きく震わせた。