黒布の向こう側

 目元にするり、と巻かれたのは黒い布だった。完全に遮光されている厚手の布で、視界が完全に塞がれると流石に佐登も不安で身じろいだ。あ、と短く不安げな声を震わせれば、後ろから抱きしめられて、首筋に口づけを落とされた。視界が塞がれたせいか、いつもよりも感覚が鋭くなってしまうのか、それだけで甘い声が喉から出てしまう。それに気を良くしたのか、鴎外の手が佐登の肌をなぞっていく。
「あ、あの、これ……っ、はず、して……」
「今日は駄目。今日は甘やかしてあげないって決めたからね」
 機嫌が悪いわけではなさそうな、声音。佐登からは表情が見えないが、紫色の瞳をすぅ、と細めており、いつものような甘さはあまりはらんでいない。スカァトはとうに脱がせたが、襯衣は釦を開いただけ。黒いストッキングをつなぐガーターベルトは先日鴎外が贈ったもので、それをみて、鴎外は口元を緩ませた。
「あっ、お、鴎外さっ、待って……っ」
「どうして? 気持ちいいでしょう?」
 ブラジャーをずらされ、胸の頂きをつままれると、背をのけぞってしまう。
「気持ちいいときは、ちゃんと教えてくれないと」
「ひっ……あっ、あ……」
「ね? ちゃんと教えてあげたよね?」
 耳元をねっとりと舐めあげられると、佐登はひ、と喉を引きつらせた。容赦の快楽の波に、足を浮かせてしまう。それをあっさりと掴まれると、するすると付け根に手を差し入れられ、すでに濡れている秘部に指を入れられる。
「あ、っ、ああ……っ、ひ……う、んっ、んん……っ」
 鴎外が身悶える佐登を見ながら、唇を塞いだ。舌をたっぷりと絡めて、口づけをすれば、佐登が身を震わせながら鴎外にすがりつこうと腕を伸ばしている。んっ、と吐息をこぼれおちた。すがりついてくる、佐登の手を拒まず、抱きしめかえしてやる。ゆったりとした動きで、鴎外の方から寝台へとなだれ込む。
「はは、暮、大胆……」
「ち、ちが……っ」
「今日はこのまましようか」
 鴎外の言葉に、快楽に溺れてまともな思考回路を残していないとは言え、佐登はえ、と困惑した声を上げた。鴎外が下にいる状況の経験はない。鴎外が佐登の両脇に手を差し入れ、身を起こさせる。
「見えないままだと、辛いかなぁ。でも、手伝ってあげるからね」
 優しい声のまま、腰を撫でられて、ふぁ、と短く声が出る。そのまま、腹をなでてやり、ひくひくと身を震わせているのを楽しげに眺める。鴎外は自分の手で佐登の手を掴むと、そっと自分の屹立に触れさせた。ぴく、と手が怯えたように逃げるのを抑えながら、穏やかに微笑んだ。
「暮、触って?」
「……は、い」
 おずおずと、佐登の手が円筒状になり、ゆっくりとした手付きで鴎外の屹立を手で扱いた。少しずつ、少しずつ硬さと大きさを変えていくそれを見えないものの、手で感じ取りながら、佐登はごくり、と唾液を飲み下した。これがもう少しで、自分の中に入るのだと思ったら、胸が高鳴った。鴎外がはっ、と荒い呼吸がこぼれ落とすと、佐登の手の中でひくり、と震えた。
「……そろそろ、いいよ。ねぇ、暮、今日は暮が上で動いてくれるかい?」
「え……あ、で、も……」
「さっきも言ったけど、ちゃんと手伝うとも。見えないままだしね」
 もうちょっとつけててね、これ、と鴎外の手が目隠しに触れる。暗くて、怖いが、鴎外がそう命じるのならばきっとそこに意味があるのだろう。佐登は、小さく頷いた。
「少し、腰を浮かせて、――――嗚呼、そう、上手だね」
 鴎外が腰を掴んで、入り口に屹立を宛がう。少し触れただけで、びくりと身が震えた。ああ、これからこれが中にはいるのだ、と思えば思うほど、心臓が高鳴る。
 さぁ、と鴎外の声が聞こえる。
「ゆっくり、腰をおろして入れてご覧。そのまま、ね」
「は、はいぃ……っ、」
 ゆっくりと腰をおろしていくとこじ開けるようにして鴎外の屹立が佐登の膣へと入ってくる。いつもに比べ、ずっと速度が遅いためか、はっきりとその形がよく分かる。鴎外の程よく筋肉のついた腹に手を置いて、佐登はその快楽に耐えながらも、ゆっくり、ゆっくりと挿入をしていく。
「ひっ……あ、ぁ……ひっ、あ…………っ、あ、ああ……あ、あん……っ、お、おお、きい」
「……はぁ……暮、もう少しだよ」
 頑張って、と、言われて、佐登ははい、と頷いて、最後は自重に任せるようにして腰を落とす。少し勢いが着いたせいか、鴎外の先端が、子宮の入り口まで到達してしまい、佐登は喉を晒せて、絶頂した。しばらくは息もできない、と言わんばかりに、口をぱくぱくと開閉させ、目を見開いて硬直していた。きゅうきゅうと、締め付けてくる感触に鴎外も顔をしかめたが、ぐっとこらえて、佐登に動くように促した。
「はっ……んっ、あっ、ああ……っ、ひっ、ひぁ、………んん、」
 ゆっくりと腰を上下させながら、不安げに手がさまようので鴎外が掴んで握りしめてやると、佐登がぴくりと反応し、ゆるゆると口元を緩めた。鴎外がしっかりと自分のそばにいると実感できるからだろうか。ゆるゆると腰を動かしながら、佐登がぎゅう、と鴎外の手を握っている。
「……っ、あ……うん……っ、お、がい、さ……も……っ、い、……〜っ!」
 ぐるり、と体が反転した。
 佐登は寝台に押し付けられ、思い切り、奥を穿たれた。その拍子にあっさりと佐登は絶頂に達し、喉を晒した。厚手の黒布にわずかにシミができており、佐登が泣いているのがわかった。嗚呼、と、鴎外はその黒布を外すと、藍色の瞳をわずか、瞬かせた、佐登がぼんやりと鴎外を見上げた。
「あ、……っ、うん、ん……っ、はぁ、あっ、あ、っ、ひっ……っ、あっ、あああっ!」
「はっ、……暮、……暮……んっ、」
「んぅ……っ、」
 奥を穿たれながら、口づけを交わす。何度も、何度も佐登が絶頂へ達していることはわかっているが、止まらない。止めるつもりがない、が正しい、か。奥を穿ち、互いに絶頂に達する。甲高い佐登の声と、こもった鴎外の吐息が部屋の中で消えた。

 ぐったり、と四肢を投げ出した佐登が、虚ろに鴎外を見上げていた。ぽろり、とその瞳から涙が溢れると、さすがの鴎外もどきりとした。その唇に触れるだけの口づけを何度も落としてみる。
「……鴎外、さ……」
「うん?」
「も、っと……」
 佐登が両腕を伸ばして鴎外を求める。
「もっと、して……?」
「……いいの?」
「して、くだ、さい」
 蕩けた笑顔を浮かべた佐登に、鴎外はゆるゆると微笑んだ。