いけません、首領!
鴎外は大いに不満である。
不満である理由は、年若い恋人の佐登が照れ屋であることだ。――――否、照れ屋であることはそこまで不満ではない。むしろ好ましい。鴎外の一挙手一投足に頬を赤め、視線をさまよわせているのを見るのは実に好ましい。好ましい、のだが。はずがしがりやであるせいか、佐登は鴎外に対して積極性がない。鴎外にされるがままである。否、別にそれでもいい。そういったことに詳しくない恋人を一から、自分好みに躾けるのは実に好みである。
――――目下の不満は、佐登が膝の上に座ってくれないことだ。
「ねぇ、暮」
少し、甘えた声を出して佐登を呼んで見れば、佐登は肩を震わせた。ちろり、と藍色の瞳をそちらへ向けてみれば、鴎外がとてもにこやかな表情をしている。彼はちょうど、執務机の前の豪奢な椅子に腰掛けており、ぽんぽん、とわかりやすく膝を叩いている。
「暮、おいで」
「いけませんよ、首領。本日の執務が完了しておりません」
気力を振り絞って、佐登がピシャリと答えると、鴎外は不満げに眉を顰めた。ここ数日、このやり取りばかりだ。そして、仕事は一向に減らない。佐登が仕事を増やしているのではないか、と勘ぐってしまいそうになるが佐登はふい、と耳まで赤い顔をそらして、そちらを早く終わらせてくださいませ、という。
「じゃあ、終わらせたら来てくれる?」
「……明日までの仕事を終わらせましたら」
「二言はない?」
「……ええ。もちろん」
佐登がそう言い切るので、鴎外はニヤリと、口角を持ち上げた。言質はとったのだから、存分に仕事をすればいいだけだ。書類の束をみやって、鴎外はようやく万年筆へと手を伸ばした。
* * *
「……やれば、できるのですから。このような条件をつけなくても初めからやってください」
佐登が鴎外の椅子の前に立ちながら、不満げに口にした。
机の上に積んであったはずの書類は綺麗サッパリとなくなり、机の飴色がしっかりと見えていた。鴎外はニコニコと笑いながら、佐登の手を捕まえる。その指先に口づけを落とすと、佐登は指先までも、赤くした。わかりやすい恋人の反応に気を良くしながらも、鴎外はその桑の実色の瞳で、佐登を射抜いた。
「来なさい、」
有無言わさぬその声に、佐登は逆らえない。はっきりと断じるように発せられた声に従うように佐登は、鴎外の座っている椅子に片膝を乗せた。ゆっくりと、またぐようにその椅子の上に両膝を乗せると、わずかに視線が鴎外より高くなった。身長差がもともとあまりないせいか、いつもよりも鴎外が近く見えてしまうような気がして、りんごよりも赤いその顔を隠すように、佐登はうつむいた。
「座っていいんだよ?」
「……い、いえ。このままで、」
そう? と鴎外が愉快そうに笑いながら、佐登の体に手を伸ばしてくる。抱きしめられるのか、と思えば、鴎外は片手を佐登の頬に添えて、うつむいている佐登の額に口づける。ちゅ、とわざとらしく音を立てて離れていったことに驚いて、慌てて顔を上げてみれば、鴎外の顔は至近距離にあった。慌てて後ろに飛び退きそうになれば、鴎外に腰を抑えられて、逆に鴎外と密着する形になってしまった。
「あ、あのっ、」
「ん?」
鴎外の肩に手をおいて、距離を取ろうとしながら佐登は抵抗してみるが、鴎外の手はスカァトの中に入り込み、ストッキングの上から、佐登の内ももを撫でた。冬も間近で、寒さに負けた佐登は今日から、パンストを履くようにしていたのだ。
「おや。ガーターは?」
「さ、寒かったので……って、あの、弄らないで、ください」
「どうしようかなぁ」
もうちょっと、ちゃんとお願いしてご覧、と言いながら、指を少しずつ上に持ち上げていくと、こんこん、と扉の外から叩敲が聞こえた。そのまま、がちゃり、と扉が開き、出てきたのは赤茶の髪。――――中原である。
「申し訳ありません、首領、こちらの……――――」
中原と佐登の目がばっちりと合った。
そして、中原は佐登がどこにいるのか、確認した。首領の膝の上である。そして、その鴎外の手は、佐登のスカァトの中。鴎外の手が入っているせいで、持ち上がっているスカァトから、黒いストッキングに包まれた佐登の足が見えていたので、さっと視線をそらした。
「申し訳ありませんでした、首領。十五分ほど後に出直してきます」
「中也君、そこは三十分ぐらい後だよ」
「そういう問題ではありませんっ、中原幹部、どうぞ、報告してください! 私をここにおいていかないでください!!」
ち、と鴎外から舌打ちが聞こえてきたが、佐登はあえて何も言わずに慌てて鴎外の膝から降りた。中原をなんとか引き止めて、つらつらと中原が報告をしているのを、眺める。
(あ、危なかった……)
あのまま、流されてしまいそうだった。
佐登はふう、と胸をなでおろした後、中原と鴎外が二、三言、言葉を交わしているのを眺め、そして、中原の報告が終わるまで、そのまま、鴎外の隣に立っていた。
「それでは失礼します」
「な、中原幹部、もうちょっと報告があるのでは?」
「ねぇよ」
「そんな事言わず!」
「諦めて、手前は首領の相手してろ」
「ひどい!!」
「ひどくねぇよ、俺ぁ、これ以上首領に恨まれるようなことはしたくねぇよ」
一連のやり取りを終え、中原は佐登の力にも負けることなく、扉を閉めた。
後ろを振り返るのが怖かった。
振り返りたくなかった。
「暮」
低く、自分を呼ぶ声が聞こえる。鴎外は中原が出ていく際に、直近の護衛たちに今日の執務終了を告げる電話を入れていたわけで。ついでに、執務室へ誰も来ないようにするのは中原が手配しているわけで。恐る恐る、佐登は鴎外へ振り返った。
「来なさい。ね、いい子だから」
「……は、い」
佐登が諦めて、鴎外のそばに行くと鴎外は佐登を執務机の上に押し倒した。
「あ、あの。机は、だめです。書類が」
「もう全部綺麗に片付けてあるよ」
「……でも、ここは仕事をするための、場所で」
「うん、そうだね」
ちう、と首筋を吸われる、と佐登は固く目を瞑った。
「もう、一回ここでしたじゃない」
鴎外がにやりと笑いながらそんなことをいうものだから、佐登は一気に体が熱くなった。あれはいつだったか。仕事関連のことで電話をしていたときに、鴎外にいたずらを仕掛けられたのだ。そのままなし崩し的に鴎外と交わったのを思い出す。顔を覆いたい。今すぐここから逃げ出したい。
「やっ、首領、あの……っ、」
「……今日は暴れそうだから、いつもと趣向変えようかな」
するり、と鴎外は自分のネクタイを外すと、佐登の両手を片手でまとめ上げた後、そのネクタイで器用に縛った。あっという間の出来事で、佐登は自分が何をされたのか、一瞬わからなくて、キョトンとしていたが、手がうまく動かないことを察知して、懇願するように鴎外を見上げた。
「あ、首領、これ、」
「今日は抵抗するからねぇ。痛くはないかい?」
「いた、くは、ないですけど」佐登は手を動かしてみる。きつくはないが、はずれない。「は、ずしてください」
にこり、と鴎外が笑う。
「いやだ」
死刑宣告だった。
今日はこのまま、抱かれるのだ。手ひどくされることはない、と思うがそれでも手が縛られているのは好ましい状況ではない。少なからず、佐登には被虐的な性癖はないと思っているので、できるならこの拘束は外してほしいのだが。
「ひっ、あ……っ、や……っ」
「ん? いや? じゃあ、こっちは?」
「ん、あぁっ、あ、ま、まっ、って……っ、鴎外、さん……っ」
ブラジャーは後ろの金具を外され、たくし上げられたままだ。襯衣は軽く開かれたままで、脱がされる気配もない。口と手で、胸を愛撫されれば、自然と声が口からこぼれ落ち、佐登は身悶えた。断続的に与えられる快楽にあっという間に理性が崩されるような感覚。
そもそも、鴎外に抱かれることが嫌ではないのだから、流された時点で佐登の負けなのだ。
強く、吸い付かれると佐登は喉を晒して高い声を上げそうになって、慌てて唇を噛んだ。
「おや。……ああ、向こう側に一応、護衛はいるからねぇ」
鴎外が気づいて、にやりと笑った。そして、佐登の耳元に唇を近づけると「もしかしたら、聞かれちゃうかも、ね」と意地悪く言うのだ。佐登はふるふると身を震わせ、藍色の瞳にたっぷりと涙をためて、鴎外に視線を向けた。楽しそうな顔をしている鴎外とは対象的に、佐登は今にも泣き出しそうな顔だ。
「声我慢しないとね」
「ひ……っ、ん……んぅ……」
誰も来ないことは確かだが、部屋の外に音が漏れないとも限らない。ぎゅう、と唇を噛み締めようとすれば、鴎外はこら、と言って唇を指でなぞる。もうとっくに手袋は脱がれていて、机の端の方に揃えられていた。
再び、鴎外の唇は胸への愛撫へ戻っていき、ちうちうと、胸に赤い花びらを落としていく。
鴎外の手が少しずつ下に下っていき、そのまま、佐登の足を両足揃えて膝から持ち上げた。
「え、あ、っ、鴎外さん、」
「これ、履いたままじゃ、続きができないからねぇ。足、暴れさせないでね?」
スカァトのウエスト部分のチャックをわずかに緩めた後、鴎外はその中へ手を差し込んで、佐登のパンストに手をかけた。流石に、と抵抗しようとしたが、鴎外に両足をしっかりと抱えられ抑えられているため、抵抗しようがなかった。するするとあっさりパンストが自分の目の前で脱がされてしまう。
「ひっ、……あ、……やっ、な、め、ちゃ……や……っ、」
「美味しそうだったから、つい」
「……もうっ、」
佐登の足に引っかかっていたパンプスがことり、と落ちた。鴎外はパンストをすべて抜き取ると、そのまま床に落とした。足の先に唇を落とし、そこから少しずつ、愛撫をしていくと、佐登は声を抑えながら、しかし、先程に比べれば抵抗する気はなくなったのだろう、素直に快楽に身を委ねているように見えた。
内ももの柔らかい部分にそっと歯を当てると、甲高い声が一瞬上がった。
「……や……っ、鴎外、さん……いた、い」
「ちょっと、痛かったかい? ごめんね」
噛み付いた部分に鴎外は優しく吸い付いて、更に赤く後を残す。
「ん……ふっ、んっ」
「嗚呼。もう、こんなに濡らして。気持ちよかったようで、良かったよ」
「……〜っ、」
言わなくてもいい、と視線で訴えかけるが鴎外はどこ吹く風だ。佐登のショーツをわずかにずらして、愛液で濡れているそこに指を這わせた。くちゅ、と静寂な執務室に音が響くような気がして、佐登は一気に羞恥心が増した。そのまま中に指を一本押し込まれると、そんなことを考えている余裕もない。
「ひっ……あっ、あ……っ、ああっ、」
「まだやっぱりきついねぇ。ほら、少し力を抜いてご覧?」
「あっ、……む、むり……っ、あっ、ひぁっ」
仕方ない子だねぇ、と鴎外は言いながら指を奥へと進める。途中で、かくり、と指を曲げて、佐登の感じるところを擦り上げると、佐登は喉を晒して、その瞳から涙をこぼした。がちがち、と声を上げないために食いしばったのだろう歯が震えている音が聞こえる。
「んっ、ふぅ………ふっ、あっ……は……っ、ぁ……」
鴎外の指が二本に増える。
バラバラと中を広げられ、いいところを擦り上げられればたまらない。強い快楽に声を我慢しようとする意識すら削がれそうになるが、なんとか声を殺し、歯を食いしばって耐えた。
「んっ、んんんっ、ふっ、んぁっ、んんぅ!!」
だんだんと指の抜き差しが激しくなり、佐登は近くでチラチラと動いていた自分の襯衣を思い切り噛んだ。鴎外はそれに気づくと、一瞬、その瞳を細めて、面白くなさそうな顔をした。
「そろそろ、いきたいかな?」
「んー……っ、んっ、んん、ふぅ……っ、」
「勿論、いいとも。まあ、あまり聞こえてないみたいだけど」
佐登のいいところを鴎外の指が擦り上げると、佐登が仰け反って達した。
不満である理由は、年若い恋人の佐登が照れ屋であることだ。――――否、照れ屋であることはそこまで不満ではない。むしろ好ましい。鴎外の一挙手一投足に頬を赤め、視線をさまよわせているのを見るのは実に好ましい。好ましい、のだが。はずがしがりやであるせいか、佐登は鴎外に対して積極性がない。鴎外にされるがままである。否、別にそれでもいい。そういったことに詳しくない恋人を一から、自分好みに躾けるのは実に好みである。
――――目下の不満は、佐登が膝の上に座ってくれないことだ。
「ねぇ、暮」
少し、甘えた声を出して佐登を呼んで見れば、佐登は肩を震わせた。ちろり、と藍色の瞳をそちらへ向けてみれば、鴎外がとてもにこやかな表情をしている。彼はちょうど、執務机の前の豪奢な椅子に腰掛けており、ぽんぽん、とわかりやすく膝を叩いている。
「暮、おいで」
「いけませんよ、首領。本日の執務が完了しておりません」
気力を振り絞って、佐登がピシャリと答えると、鴎外は不満げに眉を顰めた。ここ数日、このやり取りばかりだ。そして、仕事は一向に減らない。佐登が仕事を増やしているのではないか、と勘ぐってしまいそうになるが佐登はふい、と耳まで赤い顔をそらして、そちらを早く終わらせてくださいませ、という。
「じゃあ、終わらせたら来てくれる?」
「……明日までの仕事を終わらせましたら」
「二言はない?」
「……ええ。もちろん」
佐登がそう言い切るので、鴎外はニヤリと、口角を持ち上げた。言質はとったのだから、存分に仕事をすればいいだけだ。書類の束をみやって、鴎外はようやく万年筆へと手を伸ばした。
* * *
「……やれば、できるのですから。このような条件をつけなくても初めからやってください」
佐登が鴎外の椅子の前に立ちながら、不満げに口にした。
机の上に積んであったはずの書類は綺麗サッパリとなくなり、机の飴色がしっかりと見えていた。鴎外はニコニコと笑いながら、佐登の手を捕まえる。その指先に口づけを落とすと、佐登は指先までも、赤くした。わかりやすい恋人の反応に気を良くしながらも、鴎外はその桑の実色の瞳で、佐登を射抜いた。
「来なさい、」
有無言わさぬその声に、佐登は逆らえない。はっきりと断じるように発せられた声に従うように佐登は、鴎外の座っている椅子に片膝を乗せた。ゆっくりと、またぐようにその椅子の上に両膝を乗せると、わずかに視線が鴎外より高くなった。身長差がもともとあまりないせいか、いつもよりも鴎外が近く見えてしまうような気がして、りんごよりも赤いその顔を隠すように、佐登はうつむいた。
「座っていいんだよ?」
「……い、いえ。このままで、」
そう? と鴎外が愉快そうに笑いながら、佐登の体に手を伸ばしてくる。抱きしめられるのか、と思えば、鴎外は片手を佐登の頬に添えて、うつむいている佐登の額に口づける。ちゅ、とわざとらしく音を立てて離れていったことに驚いて、慌てて顔を上げてみれば、鴎外の顔は至近距離にあった。慌てて後ろに飛び退きそうになれば、鴎外に腰を抑えられて、逆に鴎外と密着する形になってしまった。
「あ、あのっ、」
「ん?」
鴎外の肩に手をおいて、距離を取ろうとしながら佐登は抵抗してみるが、鴎外の手はスカァトの中に入り込み、ストッキングの上から、佐登の内ももを撫でた。冬も間近で、寒さに負けた佐登は今日から、パンストを履くようにしていたのだ。
「おや。ガーターは?」
「さ、寒かったので……って、あの、弄らないで、ください」
「どうしようかなぁ」
もうちょっと、ちゃんとお願いしてご覧、と言いながら、指を少しずつ上に持ち上げていくと、こんこん、と扉の外から叩敲が聞こえた。そのまま、がちゃり、と扉が開き、出てきたのは赤茶の髪。――――中原である。
「申し訳ありません、首領、こちらの……――――」
中原と佐登の目がばっちりと合った。
そして、中原は佐登がどこにいるのか、確認した。首領の膝の上である。そして、その鴎外の手は、佐登のスカァトの中。鴎外の手が入っているせいで、持ち上がっているスカァトから、黒いストッキングに包まれた佐登の足が見えていたので、さっと視線をそらした。
「申し訳ありませんでした、首領。十五分ほど後に出直してきます」
「中也君、そこは三十分ぐらい後だよ」
「そういう問題ではありませんっ、中原幹部、どうぞ、報告してください! 私をここにおいていかないでください!!」
ち、と鴎外から舌打ちが聞こえてきたが、佐登はあえて何も言わずに慌てて鴎外の膝から降りた。中原をなんとか引き止めて、つらつらと中原が報告をしているのを、眺める。
(あ、危なかった……)
あのまま、流されてしまいそうだった。
佐登はふう、と胸をなでおろした後、中原と鴎外が二、三言、言葉を交わしているのを眺め、そして、中原の報告が終わるまで、そのまま、鴎外の隣に立っていた。
「それでは失礼します」
「な、中原幹部、もうちょっと報告があるのでは?」
「ねぇよ」
「そんな事言わず!」
「諦めて、手前は首領の相手してろ」
「ひどい!!」
「ひどくねぇよ、俺ぁ、これ以上首領に恨まれるようなことはしたくねぇよ」
一連のやり取りを終え、中原は佐登の力にも負けることなく、扉を閉めた。
後ろを振り返るのが怖かった。
振り返りたくなかった。
「暮」
低く、自分を呼ぶ声が聞こえる。鴎外は中原が出ていく際に、直近の護衛たちに今日の執務終了を告げる電話を入れていたわけで。ついでに、執務室へ誰も来ないようにするのは中原が手配しているわけで。恐る恐る、佐登は鴎外へ振り返った。
「来なさい。ね、いい子だから」
「……は、い」
佐登が諦めて、鴎外のそばに行くと鴎外は佐登を執務机の上に押し倒した。
「あ、あの。机は、だめです。書類が」
「もう全部綺麗に片付けてあるよ」
「……でも、ここは仕事をするための、場所で」
「うん、そうだね」
ちう、と首筋を吸われる、と佐登は固く目を瞑った。
「もう、一回ここでしたじゃない」
鴎外がにやりと笑いながらそんなことをいうものだから、佐登は一気に体が熱くなった。あれはいつだったか。仕事関連のことで電話をしていたときに、鴎外にいたずらを仕掛けられたのだ。そのままなし崩し的に鴎外と交わったのを思い出す。顔を覆いたい。今すぐここから逃げ出したい。
「やっ、首領、あの……っ、」
「……今日は暴れそうだから、いつもと趣向変えようかな」
するり、と鴎外は自分のネクタイを外すと、佐登の両手を片手でまとめ上げた後、そのネクタイで器用に縛った。あっという間の出来事で、佐登は自分が何をされたのか、一瞬わからなくて、キョトンとしていたが、手がうまく動かないことを察知して、懇願するように鴎外を見上げた。
「あ、首領、これ、」
「今日は抵抗するからねぇ。痛くはないかい?」
「いた、くは、ないですけど」佐登は手を動かしてみる。きつくはないが、はずれない。「は、ずしてください」
にこり、と鴎外が笑う。
「いやだ」
死刑宣告だった。
今日はこのまま、抱かれるのだ。手ひどくされることはない、と思うがそれでも手が縛られているのは好ましい状況ではない。少なからず、佐登には被虐的な性癖はないと思っているので、できるならこの拘束は外してほしいのだが。
「ひっ、あ……っ、や……っ」
「ん? いや? じゃあ、こっちは?」
「ん、あぁっ、あ、ま、まっ、って……っ、鴎外、さん……っ」
ブラジャーは後ろの金具を外され、たくし上げられたままだ。襯衣は軽く開かれたままで、脱がされる気配もない。口と手で、胸を愛撫されれば、自然と声が口からこぼれ落ち、佐登は身悶えた。断続的に与えられる快楽にあっという間に理性が崩されるような感覚。
そもそも、鴎外に抱かれることが嫌ではないのだから、流された時点で佐登の負けなのだ。
強く、吸い付かれると佐登は喉を晒して高い声を上げそうになって、慌てて唇を噛んだ。
「おや。……ああ、向こう側に一応、護衛はいるからねぇ」
鴎外が気づいて、にやりと笑った。そして、佐登の耳元に唇を近づけると「もしかしたら、聞かれちゃうかも、ね」と意地悪く言うのだ。佐登はふるふると身を震わせ、藍色の瞳にたっぷりと涙をためて、鴎外に視線を向けた。楽しそうな顔をしている鴎外とは対象的に、佐登は今にも泣き出しそうな顔だ。
「声我慢しないとね」
「ひ……っ、ん……んぅ……」
誰も来ないことは確かだが、部屋の外に音が漏れないとも限らない。ぎゅう、と唇を噛み締めようとすれば、鴎外はこら、と言って唇を指でなぞる。もうとっくに手袋は脱がれていて、机の端の方に揃えられていた。
再び、鴎外の唇は胸への愛撫へ戻っていき、ちうちうと、胸に赤い花びらを落としていく。
鴎外の手が少しずつ下に下っていき、そのまま、佐登の足を両足揃えて膝から持ち上げた。
「え、あ、っ、鴎外さん、」
「これ、履いたままじゃ、続きができないからねぇ。足、暴れさせないでね?」
スカァトのウエスト部分のチャックをわずかに緩めた後、鴎外はその中へ手を差し込んで、佐登のパンストに手をかけた。流石に、と抵抗しようとしたが、鴎外に両足をしっかりと抱えられ抑えられているため、抵抗しようがなかった。するするとあっさりパンストが自分の目の前で脱がされてしまう。
「ひっ、……あ、……やっ、な、め、ちゃ……や……っ、」
「美味しそうだったから、つい」
「……もうっ、」
佐登の足に引っかかっていたパンプスがことり、と落ちた。鴎外はパンストをすべて抜き取ると、そのまま床に落とした。足の先に唇を落とし、そこから少しずつ、愛撫をしていくと、佐登は声を抑えながら、しかし、先程に比べれば抵抗する気はなくなったのだろう、素直に快楽に身を委ねているように見えた。
内ももの柔らかい部分にそっと歯を当てると、甲高い声が一瞬上がった。
「……や……っ、鴎外、さん……いた、い」
「ちょっと、痛かったかい? ごめんね」
噛み付いた部分に鴎外は優しく吸い付いて、更に赤く後を残す。
「ん……ふっ、んっ」
「嗚呼。もう、こんなに濡らして。気持ちよかったようで、良かったよ」
「……〜っ、」
言わなくてもいい、と視線で訴えかけるが鴎外はどこ吹く風だ。佐登のショーツをわずかにずらして、愛液で濡れているそこに指を這わせた。くちゅ、と静寂な執務室に音が響くような気がして、佐登は一気に羞恥心が増した。そのまま中に指を一本押し込まれると、そんなことを考えている余裕もない。
「ひっ……あっ、あ……っ、ああっ、」
「まだやっぱりきついねぇ。ほら、少し力を抜いてご覧?」
「あっ、……む、むり……っ、あっ、ひぁっ」
仕方ない子だねぇ、と鴎外は言いながら指を奥へと進める。途中で、かくり、と指を曲げて、佐登の感じるところを擦り上げると、佐登は喉を晒して、その瞳から涙をこぼした。がちがち、と声を上げないために食いしばったのだろう歯が震えている音が聞こえる。
「んっ、ふぅ………ふっ、あっ……は……っ、ぁ……」
鴎外の指が二本に増える。
バラバラと中を広げられ、いいところを擦り上げられればたまらない。強い快楽に声を我慢しようとする意識すら削がれそうになるが、なんとか声を殺し、歯を食いしばって耐えた。
「んっ、んんんっ、ふっ、んぁっ、んんぅ!!」
だんだんと指の抜き差しが激しくなり、佐登は近くでチラチラと動いていた自分の襯衣を思い切り噛んだ。鴎外はそれに気づくと、一瞬、その瞳を細めて、面白くなさそうな顔をした。
「そろそろ、いきたいかな?」
「んー……っ、んっ、んん、ふぅ……っ、」
「勿論、いいとも。まあ、あまり聞こえてないみたいだけど」
佐登のいいところを鴎外の指が擦り上げると、佐登が仰け反って達した。