人は願う



 アスナは書類だらけの室長室で出されたコーヒーを飲んでいた。ありきたりなソファに腰掛けているはずなのに、それだけでどことなく特別な雰囲気が醸し出されているのは彼女自身からこぼれ出る気品だろうか。コムイはぼんやりとその人物を眺めて、ふと考えた。
(確かに……クロス元帥に似てる、かも)
 強烈なまでに赤い髪は印象につく。瞳の色は違うが、面差しは全体的にクロスを思い浮かばせた。まさしく、クロスが女性になったならこんな感じかもしれない。一人、納得して頷く。コーヒーから顔を上げたアスナが青と碧の瞳でコムイをじいと見つめていた。
「あの、クロス元帥は今どちらに……」
「さあ?」
 あっさりと肩をすくめて、アスナはコムイの質問を切り捨てた。その冷淡な声に肩を震わせたのはコムイの方だった。室温が二、三度ほど下がったのではないかと錯覚するほどの冷たい声を発したその人は薄ら笑いを浮かべており、なんてことはないように手を二、三度降って見せる。
「今頃はアジア圏に入っているやもしれませんが――俺の知ったことではない」
 薄ら笑いすら消えてコーヒーを口につけるアスナに若干の怯えをにじませながらもコムイはそうですか、と愛想笑いを浮かべた。
(もしかして、仲、良くないのだろうか)
 まあ、あのクロスと仲良くできる娘というのもなかなか想像し難いといえばし難い。そもそも、娘と円満に過ごせるとは思えない。彼の酒癖、女癖、借金の数々――想像するだけで震えが来るし、そのツケが全て娘である彼女に向かうと思ったら想像に絶する。そう考えれば、父のことを問われたアスナの冷淡な声や、今にも凍えてしまいそうなくらい冷たい空気も合点が行く。
 コムイの考えにアスナは気づいていて知らないふりなのか、それとも本当に気づいていないのかはさておき――気にした様子もなくコーヒーをソーサーに戻して




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