バスの中で待っていた氷帝も中々にがやかだった。
その中に手を繋いで入っても誰も茶化すことはない。立海のメンバーも。

バスの右半分は氷帝。左半分は立海が座る。
手を繋いだままなので必然的に私の隣は幸村。

幸村はさっきから黙ったままで、体調が良くないんじゃないかと不安になる。
バス酔いならいいけど、もし私の態度が気に障って不機嫌なのだったらどうしようか。いや、どうしようもないんだけど。


告白の返事だったらどうしよう。
わたしの中ではとっくに答えは出ている。だけど、怖いんだ。
遊びじゃないって言ってくれたけど、冗談でしたって言われるのが怖い。
周りからの視線が怖い。
幸村に告白してきた大勢の女子の中の一人になるのが怖い。

だけど、告げずに卒業するのも嫌で、卒業式の日に告白して言い逃げしてやろう。そう計画を立てていたのに。
幸村の「彼女になって」の一言で簡単に崩壊した。

わたしは蓮のように計算高くはない。
冷たく恋愛に興味がないですのフリをして逃げるしかなかった。
素直になるのが怖い。

さっさと、「わたしも好きです」って伝えてしまえ。
このモヤモヤを解消できないうちは勉強にも力が入らない。


ああ、こんなにも近くにいるのに。
こんなチャンス二度と来ないかもしれないのに。


幸村は窓に肘をついて、高速道路のトンネルのような防音パネルに囲まれた景色の変わらないガラスの向こうを見ている。

ああ、かっこいい。
こんなに彼をじっくりと見たことなんてない。
どんどん彼の儚さを帯びた魅力に惹かれていってしまう。

蓮に聞けば彼の情報なんていくらでも出てくる。
だけど、興味ないフリ。聞けば聞くほど惹かれてしまうのが目に見えていたから。


「そんなに見つめられると恥ずかしいな」
『あっ、ごめん』


気付いていたのか。
穴が開きそうなくらい見てたもんね。

わたしは空いた手で頬を包む。

少し、赤い。


早く幸村に好きと伝えたい。
今。いや、合宿中。だめ、卒業式に。

勇気が不安に押しつぶされていく。


ポケットの中の携帯が震えた。
確認すれば蓮からのメール。


《精市に早めに気持ちを伝えておくべきだ。》


知ってか知らずか。参謀と言われるだけあるかもしれない。
いくつにも分かれた道の途中の優柔不断のわたしに蓮が道標を一つ。
一際それが明るく見えた。


《できるだけ合宿中に伝えてみようかな?》
《それもいいだろう》


「あれ?名携帯持ってたの?」
『家が遠いから一応。でも学校では電源切ってカバンの中』
「アドレス聞いていい?何かあった時の」


幸村も携帯持ってたんだ。触ってる姿は知らないし、何より真田がこわい。

蓮のおかげでアドレスを交換することもできた。
彼は何者なんだろう。