午前中に着いた景の別荘。
季節が夏に足をかけた時期、バラが丁度咲き誇る季節。
昼食まで自由時間とし、各自荷物を部屋に運ぶ。
校内に入らないとはいえ、学校のことなので制服を着ていたので、動きやすい格好に着替える。
軍手とハサミとタオルをカゴに突っ込んで、部屋を出る。
「あれ、もう庭に行くの?」
部屋の前には幸村がいた。
彼も着替えたようでユニフォーム姿になっていた。
『何か用?』
「今日のスケジュール」
A4の紙にタイムスケジュールが載っていた。ドリンクとタオルを用意してほしい時間もご丁寧に書き込まれていた。
わかったと受け取る。
誘ってもらったのに、与えられた仕事が全うできないのは申し訳ない。
『今日中に多分終わると思うから明日は参加するよ』
「ねぇ、ついていっていい?」
幸村の横を通り過ぎようとした時、暇なんだと言って照れ臭そうに笑った。
わたしは頷くと、嬉しそうについてきた。
丁寧に整えられた広い庭。
本当にわたしが手を入れる必要があるのだろうか。
いや、あるか。
パッと目に付いた花や葉をハサミで落とす。
落ちた葉や花びらをカゴに投げ入れる。
「満開なのに切っちゃうのかい?」
『開きすぎてあとは落ちるだけだからね。ほら、傷の跡もある』
切り落とした花を幸村に見せる。
「姓すごいね。よくわかるね」
『何年もじいちゃんに引っ付いてこんなことやってたらね。自然と目に付いちゃう』
ただ公園を散歩するだけでも気になってしまう。病気だ。
それに景の家だから尚更完璧に近くしないとね。
そうは言っても、毎日手入れされている様子だから軽くね。
「俺もやっていいかい?」
『軍手してないから危ないよ』
それでも御構い無しといった様子で、落ちた花びらを拾う。
「バラのトゲって結構脆いよね」
『それでも虫除けにはもってこいなんじゃない?』
ちょいちょいと幸村はバラのトゲを外した。
何のために。
黙々と作業を進める。背中や肩が痛い。
「もう昼か」
『わたしはもうちょっと作業するから先に行ってて』
幸村は立ち上がり背伸びをする。
ちらりと見えた腹筋。わたしは目を背けた。
今、誰もいないよね。
辺りを見回し、わたしも立ち上がると膝が鳴って恥ずかしい。
歩き出した幸村の背中に駆け寄る。
『幸村』
「ん?」
振り返った幸村の胸のあたりを引っ張る。
バランスを崩して前屈みになった幸村の頬にキスをした。
『じゃ、また後で!』
わたしは逃げるように庭の奥へ走っていった。