キスをされた。多分、夢ではない。
今まで見たことのないような笑顔と耳まで真っ赤にさせて立ち去った姓の顔が忘れられない。
余りにも惚けているものだから、真田に殴って貰った。
痛い。夢ではない。でも、覚めない。
痛みよりも、あの子の唇が頬に触れた感触の方が強く残っている。
『タオルとドリンク置いておきますね!』
ベンチから聞こえた彼女の声。
胸が高鳴る。
『立海は柳から好みの濃さ聞いてたけど、氷帝はパッケージの分量通りに作ったよ』
「悪いな、こっちの分まで用意させて。手入れは順調か?」
『うーん、後で見てもらいたいかも。じいちゃんにも頼まなきゃだけど』
跡部と話しながら、日陰で休憩始めた部員達にドリンクとタオルを配っていく彼女。
パチリと目が合う。
姓はうつむき気味にドリンクとタオルを手渡してくれた。
また思い出される頬の感触。
なんて声をかけたらいいか忘れてしまった。
『ほっぺた腫れてるけど』
「ん?あーちょっとね」
真田に殴られたほうの頬に冷たいドリンクホルダーを押し当てる。
少し火照った肌には気持ちのいい冷たさ。
ふと目に映った彼女の腕。
無数の浅い切り傷。バラのトゲに付けられたのだろうか。
ほんのり日に焼けた健康そうな肌に残った傷を見て、痛々しいと思う前に、自分でも彼女の肌に痕を残したいと思ってしまった。
何を考えてるんだ。
初夏の日差しに頭が煮えてしまったんだと頭を振った。
「名と何かあったな」
蓮二が笑った。
疑問ではなく肯定で聞いてくるあたり、彼は何かしら手を回したのだろう。
お節介だなと思う反面、彼女が積極的に攻めてきたから帳消しにしてあげる。
「ちょっと良い方にね。何でそうしてくれたかわからないけど」
「何をされたかは知らないが、あいつなりの応えだろう」
そうか。じゃあ、彼女は恋人になってくれるのかな。
淡い期待の中、休憩が終わり、試合形式の練習が始まった。
もし、キスしたけどいつも通り接されて、あれはただの挨拶ですみたいな軽さだったらどうしようかと思ったけど、彼女もそれなりに意識しているみたいで安心した。
「よろしく宍戸」
「おう。練習試合でもお前とは当たりたくなかったな」
コートに入り握手を交わす。
練習に熱が入る。
終わったらどんな話をしようか。