翌朝。わたしは日が昇るあたりに目を覚まし、着替えて庭に飛び出す。
広い芝では真田が竹刀を振っていた。

朝露で袖や膝が濡れる。
うん、元気。一日じゃ、変わらないよね。


「おはよう、名」
『わ、びっくりした精市、おはよう』


軽く肩に置かれた手にびっくりする。
精市も早起きしてジョギングをしていたらしい。
首筋に伝った汗が妙に色っぽくて、顔を背ける。

見とれている場合じゃない。朝ごはんまでに終わらせなくちゃ。


「さっきからちょっと思ってたんだけどさ……」


精市はわたしの背中を2本の指で腰の辺りから逆撫でる。
くすぐったくて背筋が伸びる。

肩甲骨のあたりで指が止まる。


「ブラ、してないよね?」
『なっ!』


全くその通りである。
誰かに会うと思ってなかったから、キャミソールにTシャツを着ただけ。
食事の前にもう一度着替えるときに着けようと思ってた。


「今は男ばっかりだよ?油断しちゃダメ」
『は、はい……』


精市の意地悪な笑みに腰が抜ける。


「立てる?」
『ちょっと無理かも』
「また抱っこしようか?」
『だ、ダイジョウブデス……』


くすくすと精市は笑う。恥ずかしくてわたしは小さくなる。
へたり込んでると、精市も芝生に座って、少しだけお喋りをした。

くだらない話。
連休は人が多いけど映画観たかったとか、フリーマーケットに行ってみたかったとか。
この少しのお喋りがとても楽しかった。


「もうすぐご飯かな。着替えにいこう」


しかし、楽しい時間とは常に同じだけ時を刻んでいてもあっという間だ。

わたしは差し出された手を取り、お互いの部屋に戻る。
着替えて部屋を出れば、精市も着替えて待っていた。


疎らに人が集まった食堂。

お互いの名前の呼び方が変わっただけで、私と精市の関係が変わったのは一目瞭然だ。
丸井や向日に茶化され顔が熱くなる。


『わたしには勿体無いくらいの彼氏だよ』
「学年一の美男美女がくっつくのは同然のことじゃのう」
『わたしが?気のせいでしょ』


精市はかっこいい。本当にわたしと釣り合わないくらい。
仁王に美女なんて言われたけど、B組の吉川さんの方がずっとかわいい。


『告白されたのも初めてだったし』


そう言うと、みんなが不思議そうな顔をして顔を見合わせる。


「それ、本当なの?名」


精市も納得がいかないみたいな顔をしている。


『精市が初めての彼氏だし』
「まじかよぃ」


不思議がるみんなが不思議だ。
生まれてこのかた、あいつはわたしのことが好きだみたいな噂も聞いたことない。
小学生の頃はうらやましいなって指をくわえてた。


「俺も名が初めての彼女」
『え?』


みんな声を合わせて聞き返す。
嘘でしょ。ドン引き。


「そういえば、俺らってこんな浮ついた話なかったな」
「せやな。なんか新鮮や」


氷帝も顔の整った人たちなのに、告白は日常だけど、恋人とかはあんまりなんだ。
なんだか可笑しいな。