「そういえば、いつになったらキスしてもいいのかな?」
『うぇ?』
合宿からの帰り道、他のメンバーは学校に残り、精市はわたしを駅まで送ってもらっている。
学校から駅までの10分もない短い距離。
間抜けな声にクスクスと笑われてしまった。
「キスできたら、大会がんばれそうな気がするんだけど?」
『うっ……』
首を傾げられて、可愛いちょっと子供らしい姿にときめく。
胸の内を明かしたくなる。ずるい。
『キスしちゃったら、精市が忘れられなくなりそうだな、って』
勉強してるときとか、寝る前とか、ふとした拍子に思い出しそうだし、もっとキスしたくなっちゃうだろうし、もしかしたらそれ以上も。
小声でそろそろと口にする。
「名って本当に俺を煽るのが上手いね」
顔を上げると精市も顔を赤くしていた。
「忘れられなくていいんじゃない?」
『勉強に手をつけられなくなるのは困るよ』
「そう?じゃあ、入試まで待とうか」
『そ、それは待たせすぎるよ』
入試は2月だ。半年以上も待たせてしまう。
それは、わたしにもきびしい。
「じゃあ、今しちゃう?」
『だから……!』
「したくなればすればいいんじゃない?」
簡単に言っちゃうな、この人は。
これで精市の初めての彼女がわたしとか言うんだから、天然のタラシなんだな。
立ち止まって、精市はわたしの顔を見つめる。
景とは全く違う大きな手がわたしの頭を撫でる。
そのまま頬を撫で、顎に手を添えられる。
『でもダメ!初デートまでお預けです』
「えー」
両手で精市の胸を押し返す。
残念そうに手を離す。
そのままわたしの手を握る。
「これで我慢してあげる」
頬に触れる柔らかいもの。肺一杯に精市の匂い。
「ほら、ぼうっとしてないで。遅くなるよ」
『う、うん』
わたしからほっぺにキスしたけど、精市からされると恥ずかしい。
気付けば駅に着いていて、改札で離した手が寂しい。
「また明日」
『うん、また明日』
精市が見えなくなるまで改札にいたら急行を逃してしまった。残念。