「名!彼氏できたって本当なの!?」


教室に着くやいなや友達のキミちゃんが飛び込んできた。
一昨日のしかも合宿での話なのに、もうそんな話になってるの?


「誰!?氷帝のあのイケメン?柳君?幸村君?」
『キミちゃん、お、落ち着いて……』


胸ぐらをがっしり掴まれて制服にシワが付く。
それに声も大きい。


わたしは彼女を引き連れて席に着く。
キミちゃんはわたしの前の席に座る。


「で、誰なの?幸村君?」


顔を寄せて、コソコソと質問される。
わたしは小さく頷く。

おめでとうと抱きつかれる。


「氷帝のイケメン振ったかぁ……」と、友達は呟く。
景にはそんな気ないって。


「で、どこまでしたの?」
『一昨日の付き合ったばっかりなんだけど』
「キスくらいするじゃない」


当然でしょ?みたいな顔してるけど、そんな簡単にキスなんてできないよ。
まぁ、ほっぺだけはしたけどさ。唇はレベルが高すぎる。
それにファーストキスになるし、軽々しくはできないよ。


「学校一のモテ女は結構ウブなのね」
『うるさいなぁ。わたしがモテるとか論外でしょ。だいたい初めてなんだから当然でしょ」
「初めて尽くしだね」


わたしと友達は精市の登場に退く。
心臓がバクバク鳴って汗が噴き出る。


『お、おはよう』
「おはよう」
「名は相変わらず驚きすぎだ」


朝練が終わって蓮と二人でF組まできた精市。
こんなところまで来なくても。挨拶できて嬉しいけどさ。


「名のファーストキスを攫うのはあなたですよ」
「それがデートまでお預けなんだよ。ひどいよね、君永さん」


キミちゃんがピシッと精市に指を指すと、やれやれと呆れた返事をする。
女子のコイバナに割り込んで来ないでよ……。


教室がにわかに騒がしくなる。
そりゃ、幸村精市がいるんだからね。廊下から様子を見る女の子たちがいる。

この人気ぶりに、本当にこの人がわたしを選んだのか余計に分からなくなる。
ファンが怖い怖いって言いながらも、恋心に素直になってしまったわたしもわたしなんだけどさ。


「俺、姓名と付き合ったから、もう告白とかしてこないでね」


精市が廊下にいる女の子たちに手を振ると、どよめきと悲鳴で騒がしくなった。


「精市は性格が悪いな」
『他人事だからって……』


精市に告白されたって噂以上に、頭を抱えることになった恋人宣言。
不登校になりそう。