朝、精市がわたしの教室から去るときに、放課後一緒に帰ろうと約束した。
部活があるから待たせちゃうけどって言ってたけど、いつもみたいに屋上にいるし問題ない。

あー、でも勉強もいい加減しないとなぁ。
これからは図書室とかに居ようかな。
あそこは机が広くて、教室の机よりも参考とノートが広げやすいんだよね。

でも、今日は屋上って言っちゃったし、本でも読んで待ってようかな。


放課後、だいぶ昼が長くなったな。

誰もいないし、ベンチに寝転ぶ。
はぁ、気持ちいいな。


「姓先輩」
『はい?』


10分くらい目を閉じて、少し眠たくなったときに誰かに声をかけられ、体を起こす。
知らない女の子が二人。身を寄せて、怯えた羊のようだった。


「あの、幸村先輩とお付き合いしているって本当ですか?」


先輩ってことはこの子たちは後輩なのか。

本当だよと、答えれば泣き出しそうな顔をした。
ああ、この子たちは精市のことが好きなんだな。わかってはいたけど、こんな子たちが多分山ほどいる。

わたしだって精市を好きな女の子だったし。


「知ってますか?幸村先輩が姓先輩といるときに誰よりも優しい顔をするんです」
「だから、わたしたちは幸村先輩のことを諦めます」
『諦めなくてもいいんじゃないかな?』


女の子たちは目に涙を浮かべ、え?と聞き返す。


『今はわたしの彼氏だけど、ずっとそうだとは限らないじゃない?』


渡す気はないけどさ。
わたしだって、ようやく素直になって辿り着いた精市の隣。


『思い続けててよ。いつか別の素敵な人を見つけるまでさ』


偉そうかな?笑いかけてあげると、女の子たちも微笑んだ。


「ありがとうございます。整理がつきました」


頭を下げて彼女たちは屋上から去っていった。


このくらい平和に解決できたらなぁ。
告白された頃に呼び出されたことがあるけど、あんな風になったらどうしよう。


またベンチに寝転がる。
あくびを一つして目を閉じた。


「あれ、いない?」


部活を終え、片付けたその足で屋上へ向かった。
あ、ベンチから足が見えてる。

覗き込めば気持ちよさそうに眠っている。


風にスカートがめくれて、折りも切りもしていない名だから、普段見えない太ももがバッチリ見えている。
油断しすぎでしょ。
腕とは違って、日に焼けてない白い脚に邪な感情に襲われる。

触りたい。
自分のように筋肉がついてない柔らかそうな太もも。
ムッチリとか言ったら怒られちゃうんだろうな。


いつまでもこのままは言い方が悪いけど目に毒だ。
肩を揺すると、薄く目を開く。


『精、市……?』


よっぽどぐっすりだったのか、掠れた声で、まだ頭はぼんやりしているみたい。

あー、こういうのもいつかベッドで……って、ダメだ。
早まるな。思春期って面倒だな。


「帰るよ」
『うん』


起き上がり、髪を手櫛で直して俺の後ろをついてくる。
名の手を取り屋上を後にした。