あの幸村に告白された。
告白する女の子は絶えず、選び放題の中、わたしを。


わたしと幸村は三年間クラスが一緒になったことがなければ、委員会や行事に積極的ではないので一緒になることもなかった。

わたしは『幸村精市、あー知ってるテニス部のあいつね』程度しか知らない。

それは幸村が一方的に有名なだけで、一切話したことなんてなかったからだ。
確かに、告白現場を何度も目撃してしまって、いつもいる悪趣味な女程度には思われていたとは思うけど。


そういう一切の関係を持ってないからこそ、今日1日彼に会うことはなかった。


わたしは今日も屋上で夜が来るのを待っている。
運動部のかけ声や吹奏楽部の音が漏れてきている。義務教育の窮屈さから開放された熱中できることの音。不快に思うことなんてない。


ガチャリ。背後で金属の扉が開く音。
備え付けのコンクリートの固いベンチで膝を抱えて座るわたしは振り返ることなくグラウンドを見下ろしていた。


太陽や雨に晒され黒ずんだ屋上のコンクリートを踏みながら、誰かがわたしに近づいてきている。


「……ふむ。この手紙の送り主ではない確率」
『100%だよ、蓮』


今日は蓮か。


テニス部のレギュラーは本当によく呼び出される。
幸村に続いて仁王、蓮、二年の切原。他の奴らも。
ファンクラブなんかもあるくらいで、クラスこそ誰かと一緒になりはすれど無縁で卒業したかった。
現三年がレギュラー入りしたあたりから告白が増え始め、すっかり覗きで顔馴染みだ。


「データでなくとも、名ではないのは百も承知だ」


しかし、蓮とは三年間クラスが同じという関係ではあった。


『部活は?』
「今日は下級生優先でレギュラーは自主練だ。まぁ、生徒会のことでどちらにせよ休む予定だったがな」


わたしの隣に座り、手の中にある手紙の持ち主を待っているらしい。
ラブレターを無視なんてしない、テニス部はみんな律儀だ。


「……精市に告白されたらしいな」


蓮はこちらに向かずそう言った。
思い出される昨日のこと。わたしは目を閉じた。


「答えたのか?」
『答える気もなければ、このまま卒業してやるつもりだよ』
「そうか」


昨日は照れて赤くなりはしたものの、恋愛自体に興味はない。


ガチャリと再び屋上の扉が開く。
わたしは立ち上がり、告白現場から立ち去る。


「どうであろうと答えてやれ。精市に支障がでるのでな」
『あっそ。関係ないね』


屋上を出るときにすれ違った下級生の女の子。

明日、ここに来た時には砕けた恋心が散らばってるんだろうな。