「名の家に行くのか。あまり驚くなよ」


名とお家デートする話を蓮二にしたらそんな言葉が返ってきた。
それはどういうことだろうと思って名に連れられてきた鉄のシックな門。

名はもっと一般的な一軒家に住んでいるイメージがあったから、門に出迎えられるなんて思ってなかった。

名に着いて門をくぐれば、玄関まで続く石畳と、規則正しく植えられた低木。
不自然にもその木下には草が生えておらず、土がむき出しだ。


『あっ、その辺は売り物なの。こっちが駐車場で入り口はちょっと殺風景だよね』


石畳を進み二階建ての立派な鉄筋コンクリートの家の玄関に行くと思えば、大きくそれて玄関の左側へ進む。


『わたしの部屋は離れなの』


ちょっとだけ曇った表情。
家族と何かあるのだろうか。理由はいつか教えてくれるのだろうか。

感染した感情。
彼女には言っていない自身の病気のこと。いつか倒れる前に聞いてもらわないと。


灰色の煙に包まれた体に花の香りが鼻をくすぐった。


『すごいでしょ。わたしが育てたの』


眼前に広がるイギリス風の庭にと、曇り一つなく笑う名。
バラの季節は終わったとはいえ、豊かな花の香りで彩られていた。


その奥に母屋と渡り廊下で繋がった建物。あれが多分名の部屋。


『もうちょっとお庭見てて。おやつと飲み物取ってくるから』


そう言って、勝手口と思わしき扉の鍵を開け家の中に消えた。
その近くの大きなガラス戸。カーテンが開いていたから覗き込めば応接室のようだった。

門のところに《姓造園》と掛けてあったから、事務所も兼ねてるんだろう。

俺は庭をぐるりと一周する。
おじいさんがやってる造園業だから、もっと古めかしいものだと思ってたけど、跡部の別荘といい洋風の庭が得意なのだろうか。


『精市!こっちだよ』
「わかった、今行くよ」


渡り廊下からの呼びかけに、離れへ足を向ける。


「いい庭だね」
『ありがとう。家を建て替えるときに造らせてくれたの』
「じゃあ、本当に名が造ったんだ」
『あれ?嘘だと思ってたの?』
「中学生で庭造りってねぇ」
『それブーメランじゃない?」


中学生でガーデニングが趣味なんて変わってるねと言われ続けてきたから、以前に名も同じと知ってなんだか可笑しかった。
『趣味が同じで嬉しい。一緒に土いじりできるね』なんて言われて舞い上がっちゃったな。


『こうやって庭でお話をしてるのもいいけど、勉強、勉強!』
「あはは、そうだね」


離れの前に靴を脱ぐ。玄関からじゃないなんて、忍び込んだみたいだ。