ノートに黙々と向かっていたら二時間くらい経っていたらしい。
二人で背伸びをして休憩する。


「小学校のアルバム見せてよ」
『えー、景の家でアルバム見てたじゃん』
「それとこれとは違うよ」


ねだられ渋々本棚からアルバムを持ち出す。

あんまりいい写真ないんだよな。

パラパラとアルバムがめくられる。
そういえば、他の人にアルバムを見せるの初めてかも。


「蓮二も載ってる」
『五年までいたからねー。一年会わないだけで背が伸びててびっくりした』
「名も3年で顔が違うね」
『えー、嘘!』


自分の顔を鏡で見る。

変わった?変わったのかな?
ちょっと子供っぽい頬のふっくら感は消えたかもしれないけど。


「この頃は可愛いけど、綺麗になったかな?」


精市も鏡に映り込む。
比べ物にならないくらい美しい顔がわたしと並んでいる。


「ダメ?」


唇に精市の指が触れる。
鏡越しに目が合って、赤い顔のわたしと、獲物を追い詰めた肉食獣のような精市に喉がキュッと締まる。

肩に手を回され、逃げられない。

横顔が鏡に映ったと思えば、頬にキスをされる。
何度もねだるようなキス。

欲情してる。そういう表現がぴったり。
触れたている肌からわたしにもじわりと似た感情が蝕む。


『……いいよ』
「ちょっと流されやすいよね」


くすくすと笑って精市はわたしと向き合う。


『目、瞑ってたらいいんだよね?』
「お好きにどうぞ」


わたしは目を瞑る。
顎に精市の手が添えられる。

暗い中で精市が近付く気配がする。何も見えないからかすかな空気の動きにも集中しちゃう。
ドキドキが止まらない。

唇に柔らか感触。
一瞬だったような、何時間だったような。
しっとりとした柔らかな皮膚同士が名残惜しそうに離れた。


「ふふっ、キスしちゃったね」
『うん……』
「もっとしてほしい?」
『んー、もうちょっと落ち着いてから』


全力疾走した時よりもドキドキしている。肺もぺたんこにされる。
心臓が大きく膨らんだと思えば、握り潰されるように小さくなる。
口から心臓が出る。

幸せだっていうのにとっても苦しい。


目の前にいる精市と目が合わせられない。
目を合わせたら死んでしまう気がする。


「名」
『なに?』
「好きだよ」


ドクンと心臓が動く。


『わたしも』
「わたしも、何?」



精市は時々意地悪だと思う。

わたしはそろりと顔を上げて、精市と目を合わせる。
ガラス玉みたいなきれいな彼の目にわたしが映っている気がする。


『好き、だよ』
「うん、知ってる」


精市はもう一度キスをした。

心臓が壊れる。死んだって構わない。