「落ち着いた?」
『精市こそ』
何度も触れるだけのキスをされた。
舌はダメ!と言ったら、またお預けかぁと呟いていた。
「もっと他のところにキスしたいんだよ」
『他のところ?』
精市の手が伸びてきて、首筋に触れてから胸元に下りてきた。
『すればいいんじゃないの?』
「あれ、意味がわかってない?」
ほっぺとか、手の甲にキスするようなものじゃないのかな。
「キスマークつけていい?ってこと」
ハッとした。
そうか、キスマークか。
この間友達が胸元に付けられていた気がする。
いつか精市に……って思って勝手に恥ずかしくなった。
「跡部の家で腕にバラで浅い切り傷がついてたでしょ?」
『うん』
「あの時に俺もあんな風に付けたいなって思って」
あの時そんな風に思われてたのか。
顔が熱くなる。
「一箇所だけ、お願い」
うーん。
どこに付ける気なんだろう。
でも、どちらにせよ月曜に体育があるんだよな。
『でも、キスマークってエッチの時につけるんじゃないの?』
エッチなんて自分で言っておいて、恥ずかしくなって手で顔を覆った。
指の間から精市を見れば、彼も顔を赤くして、腕で口元を隠していた。
「その時ばかりじゃないと思うけど、ちょっと急ぎすぎたね」
『精市が意外と肉食系でびっくりしてる』
草食系男子ってほど奥手には思ってなかったけど、少女漫画みたいに段階を踏まないというか、捲し立てるように次に進もうとしてて、わたしはオロオロするばかりだ。
「俺もそんなつもりないんだけど、早く名が欲しいと思っちゃって」
『お互い初めてなんだもん。わかんないから失敗するよ』
恥ずかしいから色々ダメダメ言ってるけど、精市と一緒になりたい気持ちはわたしにもあるわけだし。
焦っちゃうほど、気持ちがグチャグチャになってるわけじゃないし。
期限を決めておけば、心の準備とかもできるかな。
『あのさ、全国大会終わってからなら好きにしていいよ』
「え……?」
『あ、でもエッチだけは卒業するまで、待って。ダメかな……?』
おずおずと精市の顔を覗き込む。
彼は目を瞑って、深呼吸。
何度か繰り返し、目をゆっくりと開けた。
「わかった。丁度付き合って3ヶ月ってところだし妥当かな」
『待たせない?』
「大丈夫、目標ができたよ」
精市はわたしを優しく抱きしめた。
「全国頑張るから。名も夏期講習とかあるんでしょ?」
『うん。夏休みは中々会えないかもね』
だから、終わったらたくさん甘えて?
わたしも時間作って、1日、3日、ううんいつでも甘えられるようにしておくから。
そう言ってわたしも精市を抱きしめた。
「もう一回、キスさせて」
『いいよ』
顔を上げて目を瞑る。
あの日、屋上で精市に好きだと告げられて、どれだけ気持ちを伝えられただろう。
好きだと言うのに周りに怯えて、素直になれずトゲをちらつかせただろう。
案外とってつけただけのトゲは指先で突かれただけで取れる。バラみたいに。
「名からキスしてよ」
『えぇ……』
目を開ければ、精市が目を瞑って待っていた。
取れたのはトゲだけではないみたい。
触れる間際まで顔を近づけ、そこから目を瞑って唇を重ねた。
ずいぶん素直になったな、と。
土から栄養からありとあらゆるものが変えられていて、どうもわたしではないみたい。
「ありがとう、名。好きだよ」
冬の緩んだ暖かい春の陽射しのような精市の笑顔。
この人を好きに、この人の好きになれてよかった。
『わたしも、精市のこと好き。大好き』