案の定である。
昼休みに派手な女の子たちに声をかけられた。
深いため息をついて、彼女らのあとについていく。
三年が始まって3週間。幸先が悪い。
F組から連れ出され、その隣が階段のせいか屋上へ必然的に向かう。
昼間の屋上なんて行くのか。人がいるのに。
どうせなら体育館裏とかさ、焼却炉のあたりとかにすればいいのに。
屋上の広いところから陰になる給水塔の下、わたしはフェンスを背にして五人の女の子に囲まれた。
みんな三年。進学は内部だからって、私学なんだから下手したら追い出されるよ。
「幸村くんと付き合ってんの?」
『いいえ』
「じゃあ、なんで抱き合ってたの!?」
やっぱりそれか。呆れるなぁ。
『知らないよ。幸村に聞きな』
「あんたが幸村くんを弄んでるくらいわかってんだからね!!」
興奮した1人がフェンスを蹴り飛ばす。あー、危ない。
「氷帝のやつと遊んでることだって証拠があるんだから」
うーわ。先週の金曜日、あいつと制服のまま東京で遊んだ。その時のが携帯でご丁寧に写真に納められている。
あいつとは親の仕事で仲良くなってるだけだし、身体の関係とかそういうのじゃないし、第一この完璧人間がわたしを恋愛対象にしてないっての。
「そこまでにしない?俺らミーティングしてるんだ」
現れたのは藍色のゆるく天然パーマの入った髪のあいつ。
人当たりよさそうな笑顔。
女の子たちは顔を青くする。紅くもあるかな。
歩み寄ってきた幸村を避けるように五人角に固まる。
その一人から携帯を取り上げ、画面を確認する。
「あー、ふーん……?」
幸村はスルリとわたしの腰に片手を回し、抱き寄せ少し体重をかけられる。
近い。呼吸が聞こえる。
「跡部じゃん。彼氏なの?それとも浮気?」
『幼馴染』
「本当?」
なんでそんなこと確認するんだろう。
幸村は携帯を投げ返し、空いた手をわたしの頬に添えた。
「ダメだよ、俺を嫉妬させちゃ」
耳元で囁かれ、背中に虫が這ったような感覚が襲う。
「君たちもいつまで見てるの?帰りなよ」
顔を青から真っ赤に染めた彼女らは逃げるようにその場を去った。
一人だけ振り返り睨んできた。
幸村は気にしないとばかりにひらひらと手を振る。
バタンと扉が閉まる音で力が抜けた。
「姓大丈夫?」
『離して』
頬に添えられた手を払う。
腰に回された手は、体から力が抜けているので話さないでくれると嬉しい。
とんでもないワガママだけど。恥ずかしいけど。
動けないわたしを知ってか知らずか、幸村はわたしを横抱きにして、ズカズカと歩く。
あ、無理。嫌な予感。