幸村に抱えられながらどこへ向かうのやら。
さっきミーティングとか言ってたな。
……テニス部か。
「連れてきた。真田、何か言いたげだけど、怖くて力が抜けてるみたいだから大目に見て」
目を丸くしたテニス部員を尻目に、幸村はベンチに下ろしてくれた。
幸村がいなければあの場に座り込んで、しばらく過ごしてただろうな。
というか、怖くてじゃなくて、あんたのせいだ。
「姓先輩すごいッスね」
おずおずと話しかけてきた二年生の切原。
わたしもこの二週間とんでもないことが起こっているのはわかっている。
幸村に告白され、抱き寄せられ、耳元で囁かれ、抱え上げられ、ファンクラブなら死んでいた。
ここまでされて、幸村を突っぱねているわたしもすごい。
『ミーティングなのにわたしがいていいわけ?』
この場から去りたいのが本音。
なんで好き好んでテニス部のそばにいなければいけないんだろう。
また顔も知らない女の子に睨まれる。
「少なからず俺の近くなら何もされないよ」
『女の子の恨みは蓄積型で、圧縮されたあとに爆発するんですよ』
「そうなの?」
あれだけ告白されておいて、女心はわかってないらしい。
わたしがテニス部員といるだけで、薪に水素の詰まった試験管が混ぜられていく。
一度火が着けば爆発する。火傷くらいで済むなら良いのだけど。
「次の連休に合宿の話になっていただろ」
幸村は部員達に向き直り、部活の話を始めた。
お昼は呼び出される前に食べてたから、あと20分くらい持て余す昼休み。
進路相談は進級前に終わらせてるし、進学先も決めている。
入学するだけなら学力的には問題はないけれど、特待取ろうと思えばまだまだ勉強が足りない。
放課後に屋上で過ごす時間を削れば時間は足りるかも知れないけど、そこまで詰め込めるほど頭に容量はない。
連休もこれからゆっくり休める最後だと思って、なんとなく予定を入れず、参考書でも買いに行こうかなと考えている。
「ねぇ、」
『何』
「合宿の間だけ、マネージャーみたいなことして欲しいんだけど、いいかな?」
『いいよ、暇だし』
思いの外、簡単に返事が返ってきた。
部の事情も聞いてないし、予定だってあっただろうに。
《氷帝と跡部の別荘で》と言うと、場所まで返ってきた。
別にそこへ行くのが初めてじゃないといった口ぶり。
少しだけむかつく。
予鈴が鳴る前に解散した俺たち。
姓は予鈴が鳴るまでここで過ごすのだろうか。立ち上がる様子はない。
『さっきはありがとう』
風にかき消されそうな小さな声。
視線は膝の上の手に向いている。顔は見えない。
「怪我する前でよかったよ。教室には蓮二がいるだろうし、何かあったら誰でもいいから言うこと。いいね?」
『うん』
携帯のアドレスと思ったけれど、姓は持っている様子がないし、俺もアドレス聞かれるのが面倒だから持ってないことにしている。
「これから放課後の屋上は気をつけてね」
『すぐ家に帰るよ。勉強もそろそろね』
ほんの少しだけ、今日の彼女は素直だった。