わたしは幸村が好きだ。
彼から告白されるより以前から。
入学式の日、ばったり蓮に会った。
知ってる人が誰もいない神奈川の中学を受けたというのに、式が始まる前に知り合いに会ってしまった。
別れたときから少し背の高い男の子だったけど、見上げるくらい背が伸びていた。
「蓮二、知り合い?」
蓮の陰から顔を覗かせた人。
たった数週間前はランドセルを背負ってたから、中学の制服を着ていたってまだ小学生みたいなもの。幼くみんなかわいい。
蓮の近くにいた少年。女の子かと思った。声変わりもしてない彼が幸村精市。
「転校した学校の同級生だ」
「そう。俺とクラスは違うみたいだけど、よろしく」
簡単な自己紹介をして、わたしたちと別れた。
はぁ。ため息を吐くぐらい、素敵な人だ。
彼の素敵なところはそれだけではない。
美化委員に所属した彼は、わたしの教室から見える花壇をテニス部の朝練が終わった僅かな時間だけ世話をしていた。
わたしは植物を愛しむ人が好きだ。
自宅が造園業のせいだろうか。わたしも植物の世話をするのが好き。
夏休みが始まる前にだろうか。パタリと幸村を見かけなくなった。
蓮に聞いてみれば入院したらしい。
他の美化委員が何かしている様子はない。
彼がいなくなって夏休みの間、花壇を見ることにした。
夏休みの間に枯れちゃうだろうけど、ごめんね。
夏休みが明けると、花壇に植わっていたひまわりは立ち枯れしていた。無事に実をつけたらしい。
「蓮二、誰かが世話をしてくれたみたいだね」
「あいつだ」
蓮二は窓を指差す。暇そうにあくびをした女の子。
入学式のときに会った蓮二の前の学校の友達の姓名。
今度会ったらお礼を言わないと。
俺が咲く姿を見れなかったひまわり。種を集めて、彼女にあげよう。
だけど妙にタイミングの合わない子だった。
昼休みに蓮二のところに行こうと思えば女の子に捕まり、放課後は部活だし、部活が休みの日の放課後に蓮二の教室に行っても姿はなかった。
「あの子ってキツネなの?」
「フッ……化かされてるのか」
カバンに入ったままのひまわりの種。
渡せないまま冬休みさえも過ぎていった。
一年ながらもレギュラーとして部活に打ち込んでいたため、俺も忙しかった。
進級すれば同じクラスにと思ったけれど、叶うことなく、姓はまた蓮二と同じクラスだと言う。
「いいことを教えてやろう」
同じくレギュラーになった蓮二。
「あいつは放課後屋上にいる。会えるかもな」
彼の味方にいれば信用できるデータ。
俺はその日屋上に呼び出されていた。ついでだし、会えるといいな。
放課後、誰より早く屋上に上がった。
だけど、それより早く誰かがいた。
風に乗ってカシャカシャと音漏れが聞こえてきた。
音の鳴る方へ行けば、あの子がいた。
フェンスに片手を置いて、夕日に背を向けている。
ヘッドフォンをしているせいか俺には気付いてなかった。
彼女に声をかけようとしたとき、名前を呼ばれた。
振り返れば俺を呼び出した女の子。
告白を断り、振り返ればあの子はいなかった。