「おい、名。跡部様の別荘に行くんだろ?じいさんがこの頃忙しくて見に行けないから、お前が剪定してこい」


バラだけでいいから。そう父に言われた合宿の朝。
中三のわたしにそんなことさせる?大事な取引先だって言うのにさ。
あの家が景の私物ならともかく、家の持ち物でしょ。

ため息を吐いて、学校よりも一時間早く家を出た。


『おはよう』
「お前が最初に来たか。手伝いなのに悪いな」


正門には真田が立っていた。


「おはようございます」
「おはよう。誰よりも遠いのに早いな」


後から柳や柳生がやってきた。
次に幸村。眠そうな丸井を引き連れて桑原。


集合時間の10分前。切原と仁王がまだ来てない。
真田が少し苛立っている様子だ。


『ねぇ、幸村。相談』


横に並んで立つ。
それだけでニコニコしていて、ときめくような胸がざわつくような。

家を出る前のことを話した。


『ドリンクとか、タオルとかはちゃんと用意するから、お願い!』
「仕方ないなぁ」


幸村はわたしの手を取った。なんで。
振りほどこうにも振りほどけない。


「跡部はそのこと知ってるの?」
『わかんない。バスの中で言うつもり』
「そっか」


幸村は手をほどく気は無いらしい。
諦めた。やめよう。


そうしてるうちに切原と仁王が来た。
ギリギリ間に合ったが、10分前集合厳守しているため、真田から拳骨が飛んだ。


「元気だな、立海は」


景が迎えにきた。時間ぴったり。
大通りにバスを停めてるらしく、ここまで迎えにきたらしい。


わたしと幸村が隣に並んでいるのが不思議なのか、頭から足元まで睨みつける。


「なんでお前ら手を繋いでんだ?」
「好きだから」


訳が分からないみたいな顔をして、景は来た道を戻る。
それに立海のメンバーが続く。


幸村に手を繋がれながら、景に駆け寄り隣に並ぶ。


『景、お父さんに頼まれたんだけどさ、庭のバラの手入れしていい?』
「お前のじいさんから聞いてる。使用人が一応手入れしているが、お前の方が都合がいいだろ」


片手で私の頭をくしゃりと撫でる。
大きな少しゴツゴツした手が好きだ。自然と笑みがこぼれる。


少し手を引かれる。
幸村の顔が少し曇ってるように見えた。


『どうしたの?』
「なんでもない。歩くの速いよ」
『あ、ごめん』


幸村の隣に並ぶと何事もなかったように笑った。