「はぁ〜」


今日もバイト疲れた。春だからかしら。
まぁ、このバイト三昧の春休みもこれで終わり。
これから講義。講義が終わればバイト。バイト行ってから講義。
単位的にはもう必修だけでいいくらいなんだけどね。


インターフォンが鳴る。20時だっていうのに。

宅急便かな?と玄関を開ければ、幸村さんが立っていた。


「お酒、どう?」


掲げたコンビニの袋にお酒の缶とおつまみが入っている。

心が揺れる。
一人暮らししているとお酒は飲みたくても中々無駄なものと思って飲めない。
それに男の人と宅飲みってどうなの。


「苦手だった?」


首を傾げた幸村さんにわたしは首を横に降る。


「ほら、おいで」


ニコニコと手招きをする幸村さん。

なんという誘惑なんだ。
お酒は飲みたい。だけど、最近知り合ったばかりの男性と宅飲み。

意を決して、わたしは部屋の電気を消して鍵を握りしめて部屋を出る。


「お酒強いの?」
『そこそこかな?歩いて帰れるくらいまでしか飲んだことないかな」
「ふーん。俺も先月二十歳になったところだから、あんまり飲んだことないんだよね」


カチャリと鍵を開けて、幸村さんの後ろに続いて中に入る。
まだ引越しのダンボールが積まれている。


適当に座ってと言われ、ラグに腰を下ろす。

あまりキョロキョロと中を覗くのは気が引けるけど、初めて入る男の人の部屋のどこに目をやればいいのか。


『幸村さん、テニスしてるの?』


目に留まった壁に立てかけられたテニスバッグ。
随分使い古されている様子。

悪名高いテニスサークルの一人だったら、身の危険を感じる。


「中高でやってたんだ。世界にも行ったんだよ」


挨拶のときの疑問に答えが出た。
彼は幸村精市だ。見たことがあるはずだ。


「今度テニスしてみる?」


グラスを二つ持った幸村さんが隣に座った。

テレビの電源をつけて、何か面白そうな番組を探してチャンネルを弄る。
映画に行き着いて、ビニール袋からお酒を取り出しグラスに注いだ。


『幸村さんとテニスはちょっと怖いよ』
「怖い?面白いこというね。ルール抜きで打ち合うから大丈夫だよ。力も加減するし」


ニコニコとおつまみのポテトチップスの封を開ける。


球技が怖いとかそういう意味じゃないんだけどなぁ。
わたしは幸村精市のテニスがどういうものか知っている。


注がれた春限定のチューハイを口に含む。
あ、美味しい。わたしも買ってみよう。


「明日も大学かぁ。一人で起きられるかな」
『朝弱いの?』
「朝練があった頃は平気だったけど、最近はね……」


二日酔いには気を付けなきゃと呟きながらグラスを空にした幸村さん。
かなりハイペースで飲んでるけど、絡み酒じゃないよね?


「名と一緒の講義ない?」


幸村さんが差し出した講義表。


『映画論が一緒だよ』


単位取るのが簡単と噂の映画論。
他学部交流講義だからわたしと幸村さんが学部が違っても取れた。
木曜の一限だから厳しいかなって思ったけど、単位のため選択した。


「ふふっ、朝は一緒に行こうか」
『わかりました』
「やったー」


嬉しそうにグラスにお酒を注いだ幸村さん。

わたしとぴたりと身体をくっつけて映画に釘付けになる幸村さん。
あ、お酒が入るとクールそうなキャラが崩れるのかも。