「ぎゃっ!」


叫び声と共にベランダからバキバキと何か割れる音が聞こえてきた。この音はペットボトルを捻り潰した音と似ているな。
さらにバタンと音が鳴って、痛みを叫ぶ声とおそらくそれに関して怒鳴る声も聞こえてきた。


「……ども」


わたしのベランダに倒れこんだ青年と目が合う。窓を開け網戸としか外と隔たりのない部屋なので彼の声はよく聞こえた。
気まずいからなのか痛みからなのか、顔を歪めながら体を起こす。


『大丈夫ですか?』
「っす」
「ごめん、名」


ベランダに出れば、幸村さんもベランダから顔を覗かせていた。ハの字に眉を下げ、箒とちりとりを癖の強い黒髪の青年に押し付けた。
音を立てて壊れたのは非常時に破ることのできるベランダの仕切り。これってそう簡単に破れるものじゃないはずなんだけど。


『怪我は特になさそうですね』
「幸村先輩ともう一人にに丈夫にさせられたんで」
「まるで俺がスパルタみたいじゃないか」


パラパラも服についた破片を払いながら、彼は小さく文句を言っていた。


えっと、彼も見たことがあるな。幸村さんと一緒にいた。


「赤也、名に謝った?」
「あ、すいませんっした」


頭を下げた青年。思い出した、切原赤也だ。
頭を下げたことで、わたしの視界に彼のつむじが見えた。そこに乗っかった破片を取り払う。
ありがとうございますとつぶやいていた。



『劣化もしてるだろうし、気にしないで。幸村さんにも』
「すいませんっした」
「気にしようよ。プライバシー皆無だよ」


まぁ、確かに。幸村さんの部屋の往来が簡単になってしまって、ベランダに洗濯物干せなくなってしまったな。
カーテンさえ閉めておけば中を覗かれることはないだろうけど。ほんの少し恥ずかしいものだ。


再び謝りながら切原さんは破片を片付けていた。

故意であったかわからないけど、非常時ではない時に破れてしまったので、自費で設置しないといけないだろうな。
幸村さんは切原さんに弁償させると言い、切原さんも納得していたけれど、一月分のバイト代くらい軽く飛ぶだろう。いくらかだけ握らせておこう。


「名って意外と酒飲みなの?」
「あ、それ。俺も気になってたッス」


殺風景なわたしのベランダを覗き込んだ幸村さんと切原さんは室外機の隣に置かれた、一升瓶と、日本酒が入っていた2リットルのペットボトルが目についたのだろう。


『切原さん、もしこれが玄関とかここにあったらどんな人が住んでそう?』
「アル中のおっさん?」
『そういうこと』


幸村さんはそれだけで何かわかったらしいが、切原さんは首をかしげたままだった。


『女子大生の一人暮らしは危険がいっぱいなの』


理由を説明すれば切原さんは手を叩いて納得した。お姉さんにもオススメすると言って歯を見せて無邪気に笑った。


マンションの管理会社に電話をしたら、二週間待ってほしいとのことだ。その時に修繕費について聞けば、やはり切原さんにはいくらか握らせようと誓った。