Q.ファーストキスは何味でしたか?
「甘かった。雰囲気も含めて、イチゴチョコレートかな。お菓子の味がした」
『スポーツドリンク。あと、砂と汗の匂いがした』
「驚いててわかんないとか言うと思ったけど、意外と覚えてるじゃないか。なんだか嬉しいな」
感極まって抱きしめられそうだったので、幸村くんから離れた。
彼の腕は長いから抵抗虚しくすぐに引き寄せられる。
わたしたちに質問をした新聞部の二人が苦笑いした。
幸村くんにだけインタビューすればいいのに、どうしてかわたしまで巻き込まれる。
彼に後ろから抱きしめられ、新聞部からも逃してくれないらしい。
わたしの頭に顎を乗せ、なんだか幸村くんは上機嫌だ。
あんまり人の目の前でいちゃつかないようにしてほしい。
「でもあの時名は何も食べてなかったよね?」
『あーあれ?リップクリームだよ』
わたしは胸ポケットからピンクに茶色のドットのリップスティックを取り出した。
幸村くんはそれの蓋を開け、匂いを嗅ぐ。
「ん、本当だ」
『返せ、このやろう』
リップスティックはわたしの胸ポケットに戻ることなく、幸村くんのスラックスの後ろポケットにしまわれた。あとで返せよ。
Q.恋人と最近気にしていることは何ですか?
「名が全くキスに慣れてくれないこと。名前で呼んでくれないこと」
『常々だけど、隙あらばキスしようとしてくるところ。あと、サディスト』
「ふふっ」
昨日の朝に出来ていた口内炎。まずいと気にしていたらすぐに幸村くんに気付かれた。
軽く幸村くんの舌が口内炎に掠めたときに、過剰に反応してしまって、ニヤリと口元を歪めて笑われた。
聖人や神の子なんて嘘だ。悪魔か何か。
労われよバカって思ったけど、次の日には無くなってて潰されたかと思った。
「まぁ、慣れてないほうがいじめがいあるけど」
『えっ……』
幸村くんの囁きに身体が震える。抱きつかれているから彼にそれが伝わっているだろう。
新聞部の二人が頬を染めた。
「と言うか、この質問何に役立つの?」
「立海の仲良しカップルに質問して回ってるんですけど、なんか嫌味みたいなので記事にはしません」
「だろうね、仁王」
「ピヨ」
「もう一人は、丸井だね」
「さすが」
カツラを外して現れた派手な髪の色の二人。
偽インタビューだったのか、びっくりした。
記事にならないことに胸を撫で下ろした。じゃなくて、なんて質問してるんだ。
仁王にジッと睨まれる。
なんだよ、幸村くんと相応かどうか品定めしてるなら不可の判子を押してくれ。
別に幸村くんと嫌々付き合ってるわけじゃないけど。文句言われたって仕方ないし。
「唇、あんまり触らんほうがええよ」
『どうして?』
「欲求不満の現れじゃ」
無意識に触っていた指を離す。
欲求不満……か、どうかはわからないけど、リップクリームを幸村くんに盗られて、唇が乾いて落ち着かない。
後ろから幸村くんに顔を覗き込まれる。
「ほれ、また触っとる」
「忠告されたそばから触るって、お前」
『ん、癖かな』
「前々から気になってたけど、そういうこと」
身体の向きを変えられ、幸村くんと向かい合う。
あまりにも急なことでよろけてしまった身体は腰に回った彼の腕に支えられ倒れることはなかった。
あ、この状況ヤバイかも。
「仁王も丸井も出て行く。ほら」
「へーへー」
「姓がんば〜」
ひらひらと手を振って立ち去る二人の姿を見送る。一筋の汗が背中に伝った。
「欲求不満、ねぇ?」
『唇が乾いて』
幸村くんはリップスティックをポケットから取り出し、器用に片手でキャップを開け、自らの唇に塗った。
『わたしのっ……!』
いつもは乾いた幸村くんの唇が濡れている。
それだけで違和感があるのに、イチゴチョコレートの甘い匂いで唇が溶ける。
角度を変えなんども落ちてくるくちづけに涙が浮かぶ。
「もっと?」
『ばか!』
わたしは幸村くんの胸を拳で叩いた。