《立海大付属中等部です》
『あ、おはようございます。89期生の姓名と申します。八ツ島先生はいらっしゃいますか?』
《少々お待ちください》


わたしは二階のベッドで。蓮二は居間に布団を敷いて寝てもらった。
わたしのアラームよりも、蓮二の携帯から鳴った音に反応して目が覚めてしまった。
6時半。アホか、早朝に着信鳴らす奴がいるか。

なんとなく寝付けず、朝食を作ろうと下へ降りた。
二度寝をした蓮二は布団から出た手に携帯が握られていて、恐らく電源を落としたのだろう。
枕元にはいくらか漫画が積まれていて、こんな人でも漫画を読むのだなと、なんとなく感心してしまった。


『おはよう、蓮二。ご飯出来てる』


寝起きは悪くないらしい。
いつもと勝手の違う部屋に動揺しながら、布団をたたみ、洗面所へ向かった。


炊きたてのご飯と卵焼きと納豆と実家からのお漬物。二つ食卓に並べるのは少しだけ不思議な感じがする。

ご飯を食べて、片付ければ8時をまわっていたので、立海に電話をかけた。


《姓か!くたばってなかったか》
『教え子に言うセリフ?あんたも懲戒免職されてないみたいだな』


軽口を叩き合える仲。師と徒ではない。もはや悪友だ。


《で、なんだ?こんな朝早くから》
『そうそう。君の教え子の蓮二、えー蓮二の苗字なんだ?』
《柳か。真田の弟の友達とお前が何の関係だ》
『いや、拾った。家出って言うから』
《はぁ!?ついにそのレベルまでいったの。やりかねんとは思ってたけど、教え子がそんなことを》
『だから蓮二休むよ。気が済むまでいるらしいし』
《海原祭だから、適当に誤魔化しとく》
『そんな時期か。懲戒免職まっしぐらだな』
《ムショまっしぐらだな》
『うるさい』


通話を切り、漫画の続きを読んでいた蓮二に休めたことを伝えた。
海原祭だから元々自由登校みたいなものだし、電話をする必要はなかったな。
そういえば6年間海原祭に出たことなかったな。


『わたし、上で仕事してるから、お腹空いたら呼びに来て』
「軽食ぐらい俺が作るが」
『したいならしていいよ。テーブルに鍵あるでしょ、気分転換に出掛けてもいいよ。どうせ君の顔を知る人はいないんだから』


蓮二はどう見たって中学生じゃないしな。
町中歩き回ったって、誰が止めるわけでもない。閑静な住宅街だが、どこか吹き溜まりのような雰囲気だ。
都心から電車一本だし、吹き溜まりは案外的を得ていると思うけどね。
だからこそ、家出の蓮二がやってきたのかもしれないけど。


二階に上がるけど、下から人の気配がするのは何とも不思議だ。


机に向かい、ペンを握る。もう10年近く描いてるんだな。
週刊誌に送った漫画で優秀賞をとってから季刊誌で読み切りを描き始め、高校の途中から月刊誌で連載を貰うようになった。

描けば読んでくれる人がそばに居たけど、ここに越してからは担当だけだ。
何とも寂しいものだな。


「名」
『何』
「昼食ができた」


振り返れば階段から顔を覗かせた蓮二の姿があった。やっぱ、なんかこいつ可愛いな。