「多少の行儀の悪さは許されるだろうか」
ラグに寝転び、お菓子を広げて、ペットボトルのジュースを置き、漫画を読んでいる。
真面目そうな彼からは検討つかないほどの堕落ぶりに、上で仕事してんだぞと悪態をつきそうになる。
『面白いかい、その漫画』
わたしは食卓に座って、コーヒーを啜る。
目の前で寝転ぶ大男をつま先で突く。
「ああ。チームメートが読んでるのでな、気になっていた」
彼の隣に裏表紙でつまれているのはもう読んだ後だろう。
既刊23巻を昼過ぎから読んでここまで来てるってことは、かなり読むペースは早いんだな。
わたしはまだ開けていない小包を開き、彼の前に差し出す。
「これは」
『来月末に出る新刊』
「何故名が」
『それ描いてるのわたし』
見開かれた目に怯む。
彼は身体を起こし、献本の漫画を受け取る。
一巻の奥付を確認してからまたわたしの顔を見た。
「高校生の頃からか」
『おー。だからあんまり学校に行ってなかった』
「中学も同じ理由か?」
『まーね。その時はただの趣味だったけど』
「やはり八ツ島先生の言う問題児はお前か」
10年近く語り継がれる問題児ってどうなのだろう。
まぁ、中高生がターゲットの漫画雑誌で連載持っていれば、親しみのある問題児なのだろう。
「昨夜言っていたやんちゃしてた奴とは真田ではないだろうか」
『よくわかったね。弟くんと同級生なんだろ?』
「ああ、心強いチームメイト、いや戦友だな」
やけに楽しそうに部活の話をしてくれた。
彼に何があって家出したのか知らないけれど、塞ぎ込んだあの彼の姿はない。
周りに型にはめられて、つらい日常をすごしていたのだろう。
『蓮二、今度チームメイトを連れてきな』
いいな、青春。わたしにはなかった。自ら棄てた。
少し驚いた顔をした蓮二は了解したと微笑んだ。
『その漫画、あとちょっとで最終回なんだ』
高校生の頃は月刊誌だったけど、大学に進学せず時間を持て余していたら週刊誌への移行しようという話が出たのだ。
快く了承し、誰にも邪魔をされずに漫画を描きたいので、この長屋を借りた。
ならば住み込みのアシスタントをつけようとの話も出たが、一週あたりのページを減らしてでもいいから、自分の手で描きたかった。
本当に間に合わないときにだけアシスタントさんがやってくる。それだけ。
そんなほとんどわたしの手で描き上げた作品が終わりを告げる。
今手掛けているものが最終話。名残惜しく、仕上げてしまえば全て失いそうな喪失感。
そんな中に誰かいて欲しかった。
蓮二は神様からの贈り物かと思った。
「名」
何かを汲み取ったのか、蓮二は引き寄せ抱きしめた。
「お前は愛されている」