お昼休憩は12時と聞いていたからそれまでに学校に着いた。
来週からまた着る制服。汗の吸わないブラウスはやっぱり気持ち悪い。
ずっしりと重いお弁当を片手に日傘をさしてテニスコートまで向かう。

ボールが跳ねる音と掛け声がだんだん近付いてくる。
コートに立つせーちゃんや真田の姿を見つける。真剣な眼差し。
号令がかかるまで少し離れて見ていた。

それよりも先に、後輩らしき子が気付き、せーちゃんの肩を叩いた。
振り返りわたしを見つけたせーちゃんは笑って少しだけ手を振ってくれた。


部室近くの木陰で待たせてもらう。
号令がかかると、ラケットを脇に抱えたせーちゃんがコートから走ってきた。


『お疲れ様』
「ありがとう。ごめんね、暑い中待たせたね」
『わたしが寝坊したのが悪いから』


お弁当を手渡すと、せーちゃんの後ろからわたしに気付いてくれた男子が顔を出した。


「幸村先輩、彼女ッスか?」
『え?』
「あり?違うんスか?」


ニカッと無邪気に笑う後輩くん。せーちゃんの顔が笑顔のまま固まった。
あーあ、いらないこと言っちゃったなぁ。


「コラ赤也」
「どうしてですか柳先ぱーい」


駆け寄ってきた柳に首根っこを掴まれた後輩くん。
何もしてないから、顔いっぱいにクエスチョンマークを浮かべて当然だと思う。


「俺、この人と幸村先輩が一緒にいるのよく見るんですよ?」
「俺たち幼馴染なんだ」
『姓名です。よろしく』
「切原赤也ッス!仲良いんですね」


汗ばんだ手と握手を交わす。
この子がせーちゃんの口からよく出てくる、生意気盛りの弟みたいな可愛い後輩か。
柳も真田も手を焼いているみたいで、昨年中等部テニス部部長を務めて落ち着いたかと思ったけど、先輩の前では甘えるみたいだ。


「名は練習見ていくかい?」
『ううん。お弁当届けたし、晩御飯の準備をしたいからもう帰るよ』
「ちなみに今日は?」
『夏野菜たっぷりのカレーです』
「楽しみにしてるよ」


朝みたいに大きな手が頭に乗る。
その腕の先には、目を細めて笑うせーちゃんの姿。
わたしの咲みを零せば、髪をぐしゃぐしゃにされてしまった。

乱暴だなとぼやきながら、手櫛で髪を整える。


『あ、冷凍したフルーツ入ってるからみんなで食べて。たくさん入れてるから』
「ありがとう、暑いから助かるよ」
『うん。じゃ、午後の練習も頑張ってね』


日傘をさして、蜃気楼の現れたアスファルトへ足を運ぶ。
スカートは嫌だな。いくら日傘で日陰を作っても、熱されたアスファルトから放たれた熱で足が灼ける。
ローファーのゴムが溶けないか心配になるよ。


「昨日言ってたメイドさんッスか?」
「今はね。俺たちも日陰でご飯食べるよ」
「さっさと彼女にしてやればいいのに」
「赤也、何か言ったかい?」
「何でもないッス!」